暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
祟り神
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俺の心には今、一縷の希望が芽生えていた。
謎の多かったきじとらさんの、拠点とその行動原理が少しだけ分かったのだ。


奉は猫がどうとか云っていたが、そんな冗談はどうでもいい。俺が了解したのは3つ。
一つ きじとらさんは、奉の洞で『寝ていない』
二つ きじとらさんの拠点、古寺のじじいは、亡くなった子(?)に激似のきじとらさんを我が子のように溺愛している
三つ 奉が云っていた『俺の子を成そうとしている』の真意は、孫を抱きたがっているじじいへの義理が嵩じたものらしい


つまりそれは、相手は必ずしも奉でなくてもよい、ということではないか?


ひよこが卵から出て初めて見たものを親と錯覚するのと同じだ。たまたま近くにいた奉を『伴侶にすべき』と思い込んでいるだけで、実は具体的な恋愛感情があるわけじゃないんじゃないのか?ならば今後の俺のアプローチによっては俺になびく可能性だってあるのだ。…もちろん奉自身がきじとらさんをどう思っているのかは重要なので、一応聞いてみた。
「…ほう。じゃ、奪ってみるかい?俺から」
そう云って奉は、にやにや笑うばかりだ。…考えてみれば、あの本しか見えてない男がいくら可愛くても、けなげでも、女に目をくれるはずはない。…俺は一人相撲をしているのだろうか。
「一つヒントをやろうか。…猫は、家につく」
にやにや笑いを引っ込めたと思いきや、また意味の分からないことを云い捨てて本に目を落とす。赤子の時からの付き合いだというのに、奉が周りの人間をどう思っているのかがさっぱり分からない。


きじとらさんは長い石段をものともせず、毎日のように通い詰める。この場所が気に入っていることは確からしい。だから神社の主と子を成すとか、随分とおおざっぱな人生観だなぁ…。


しかしそんなきじとらさんの居場所を脅かす事態が、玉群神社に訪れていた。


奉の母さんに託されたおはぎを抱えて玉群の石段を登る。…今日も又、ちらほらと女子が軽やかな足取りで俺を追い越していく。
―――何だというのだ。
数年前のパワースポットブームの際、少しだけ参拝者が増えたことがあった。少しだけだ。何とか八幡宮にスピリチュアル系女子が雲霞の如く群がるそのついで程度の増え具合だった。
また女子に抜かされた。最近のこの『増え具合』は少し異常だ。視界の左端にすらりとしたショートパンツの脚が飛び込んで来た。思わず目が吸い寄せられる。…脚が、止まった。
「結貴くん!」


―――やべ。


「縁ちゃん。どうしたの今日は」
無理やり脚から視線を剥がす。この間レンタルショップで奉に云われた『縁に手を出したら』という台詞が脳裏をよぎり、耳が火照った。…何、考えているのだ俺は。この間まで中学生だった子供に。

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