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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五話 キフォイザー星域の会戦(その3)
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侯が軍人としての道を歩んでおられれば、天晴れ名将となられたでしょうに」

俺の言葉にリッテンハイム侯は少し驚いたような表情を見せたが直ぐ破顔した。
「卿に褒められるのは初めてだな。ますます負け戦が楽しくなってきたわ」

嬉しそうなリッテンハイム侯を見ながら思った。この内乱が始まるまでは正直主君としては物足りなかった。だが今なら迷う事無く忠誠を誓える。共に生きるのには不満な主君だったが、共に死ぬには不足の無い主君か、大神オーディンも味な事をするではないか!

リッテンハイム侯が楽しそうに指揮を執っている。俺が口を出すまでも無い、的確な指示だ。

五十年前、妻と出会った。爵位もない貧乏貴族、食うために軍人になった俺と男爵家の末娘、つりあう筈の無い男女だった。だが愛し合い、離れられぬと思ったとき、選ぶ道は死しかなかった。あの時、先代のリッテンハイム侯に偶然出会わなければ、俺達は心中していただろう。

先代リッテンハイム侯のとりなしにより俺達は一緒になる事が出来た。それからはがむしゃらに仕事をした。妻に相応しい男になるために、先代リッテンハイム侯の好意にこたえるために。そして二十八歳で将官になり、三十歳になる前に少将になった。ようやく妻にも楽をさせてやれる。人前に出ても恥ずかしい思いをさせずにすむ……。

そんな時に妻が病気になった。不治の病だった。俺は軍を退役し、彼女に残された時間を共に過ごした。それしか俺に出来る事は無かった。彼女の最後の言葉は“ごめんなさい”、“有難う”だった。

何故謝る? 謝るのは俺の方だ、お前に不自由な思いをさせ続けた。何故礼を言う? 礼を言うのも俺の方だ、お前が居たから俺はここまで這い上がる事が出来た。お前が居たから今の俺がある。

妻が死んだ後はリッテンハイム侯爵家に仕えた。妻を失った俺に残っているのはリッテンハイム侯爵家への恩返しだけだった。それだけが俺が生き続ける理由だった。それが無ければ俺は妻の後を追っていただろう。先代リッテンハイム侯は何も言わず俺を受け入れた……。

突然オストマルクに衝撃が走った。激しい震動に足をとられ横転する。強かに腰を打った。年寄りには結構きつい。
「左舷被弾」
オペレータが叫ぶように報告する姿が見えた。

「ザッカート! 大事無いか」
「何のこれしき、戦はこれからですぞ。寝てなどおれませんわ」
立ち上がりながら返した俺の答にリッテンハイム侯は大きな笑い声を上げた。

「その通りだ、ザッカート。これからが本当の勝負よ、奴らが根負けするまで戦ってやるわ」
意気軒昂に話す侯に俺は頷いた。その通りだ、その覚悟無くして負け戦は出来ん。

「被害状況を報告しろ、どうなっている」
「左舷に被弾しましたが、エンジン出力、航行、戦闘、いずれも支障ありません。
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