第2章 魔女のオペレッタ 2024/08
最後の物語:嘘の魔法
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く以上は信頼に足る実力者である動かない証左。あまり懐疑的に勘繰ろうとする意識を改め、カフェから立ち去るフィーを見送るに留めた。
カフェの出入口のカウベルの響きは、ドアを閉めると同時にピタリと鳴り止む。
室内では感じなかった、責め立てるような気温にフィーは――――女性プレイヤーは、一つ溜息を吐く。いや、この茹だるような気温だけの所為ではないだろう。ほんの少しの後ろめたさ、無償の善意を施してくれたアルゴに対する、約束を果たせない事への罪悪感が彼女の胸の中に鉛のように転がった。
これまでは全く気にも掛けなかった《嘘の辛さ》を実感しつつ、女性プレイヤーは大通りから路地裏へと滑り込む。足早に人の気配から遠ざかり、メニューウインドウからポップアップしたコマンドを幾つか操作すると、変化は間もなく起きた。
淡い色彩のプラチナブロンドは、艶のある紫髪へと色彩が移り変わる。
白地に赤の意匠を凝らした胴衣は淡い光の砕片となって身体から緩やかに剥がれ、首元を緩く覆う黒のタートルネックと白のレギンスに上書きされる。
本来、アルゴほどの《索敵》スキルを取得するプレイヤーであれば《隠蔽》スキルを発動させたプレイヤーの気配は易々と看破される。だが、彼女のスキル熟練度は常軌を逸していた。故に《変装》スキルも強制解除されずに今まで鍍金を保っていられたのだ。
アルゴから受け取ったメモを胸元に寄せ、建物の壁に寄りかかると大きく息を吐く。
「………ごめんなさい、アルゴさん」
零れた言葉は謝罪。上擦った声が震える。
込み上げてくる涙を必死に堪えながら、何とか歩みを止めまいと、彼女は路地裏の先を目指す。
――――《Phyniohra》。
――――正しく読むならば《ピニオラ》。
《笑う棺桶》から破門された彼女には、みことの救出の為に頼る宛など誰一人としていなかった。だからこそ、ピニオラは笑う棺桶と攻略組の衝突を見計らって敵陣への潜入を企てた。その中で、自分を知らず、加えて攻略組の動向に明るいアルゴこそが、情報を得るに適役だった。
これまでの自らの業から鑑みれば、誰だって助力を躊躇する。場合によっては報復を受ける危険性さえ考えられる。これまでの自らが為した不条理を反故にすることは出来ないが、我執が故にまだ死ねない。自分の命が贖罪の証となるなら、それは今すぐ差し出すわけにもいかないのである。
「約束、守れないかも知れないです………」
死ぬなら、みことを無事に救出してから。
多くを欺き、《柩の魔女》の悪名を欲しいままにした殺人者は、既にその在り方を脆く変容させていた。
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