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第二十八話
第二十八話 悪魔の農薬
博士は次の日の朝研究室から出て来た。出て来なくてもいいのに、と思ったのは内緒である。
「さて、できたぞ」
「それ、本当に農薬なんですか?」
「失礼だな、全く。大丈夫じゃ」
「はあ」
見れば何か得体の知れない色をしている。もう何があっても不思議ではない感じだ。
「これを使えばな」
「はい」
「五キロ四方の害虫は全滅じゃ」
「一滴でですか?」
「うむ、一滴でじゃ」
「それ、他の生物もまずいんじゃないんですか?」
「まあそうじゃな。穀物も枯れ果てる。百年は焦土じゃな」
「駄目じゃないですか、それって」
「駄目か」
「農薬なんですよ、今頼まれてるのは」
「じゃから害虫を」
「害虫だけじゃないですか。穀物までって」
「ううむ。では」
「作り直しですか?」
「これは自衛隊に売ってな」
「自衛隊化学兵器扱っていませんよ」
「何とまあ甘い連中だ」
「それが普通なんですよ。東○の悪の組織じゃないんですよ」
「そんなのだから舐められるんじゃ」
「そう思っているのは博士だけです」
「仕方ないのう。ではこれは保管しておこう」
「破棄しないんですか」
「天才の発明を破棄だと!?」
博士はその言葉ににわかに不機嫌になった。
「そんなことができるものか」
「何時か捕まりますよ」
「天才は国家権力になぞ屈せぬ」
「・・・・・・まあわかるとは思っていませんけれど」
「で、じゃ」
「はい」
話は強引に元に戻った。
「別の薬じゃが」
「今度はどんなのですか?」
「今度はな」
「ええ」
「うんとソフトなものじゃ」
「ソフトなんですか」
「生物を使う」
「生物を?」
「バクテリアが特定の害虫を排除するのじゃ」
「それいいんじゃないですか?生物を使った農薬ですし」
何か農薬でなくなってる気もするがそれは置いておいた。
「ではそれを今から作ろう」
「データは?」
「既に頭の中にある」
こう言ってのけるのは流石であった。これで人間としてまともならば。だがそう思ってもそれだけはどうしようもないのも事実であった。
第二十八話 完
2006・10・22
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