Side Story
少女怪盗と仮面の神父 34
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や背中を突き飛ばしたり。
私の髪を毟り取ったり、千切ったり、ナイフで切り裂いたり。
生塵や家畜の糞尿を私の頭に被せながら、楽しそうに笑うのだろうか。
(……それは……嫌だな……)
もう、すっかり慣れていた筈なのに。
一時でも温もりをくれたハウィスさんには。
ハウィスさんにだけは、そうされたくないと思ってしまった。
せめてあと少し、太陽が目を覚ましてる間だけでも離さないで欲しい……
なんて。
帰る場所を持たない自分には、贅沢すぎる欲望か。
「…………ええ」
「!」
指先が離れた。
やっぱり、と手のひらを撫でる冷たい風にちくっと心臓を刺された瞬間。
ほのかなミントの香りが、鼻の奥をふんわり優しく擽った。
柔らかな熱と感触が、強ばった体を包み込む。
「きっと、仲良くなれるわ。貴女がアルフィンの手を取ってくれるなら……私も……すごく、すごく嬉しい……」
背中に回された腕の力が強くて、ちょっとだけ息苦しい。
でも、本当に苦しいのは呼吸じゃない。
「……はい」
お父さんとお母さんが床に臥せた直後。
自分の身に覚えがない過去で、存在を否定されていると気付いた当初は、誰かの笑い声を聞くたびに心臓が冷たくなって、痛かった。苦しかった。
だから、胸の奥が悲鳴を上げるのは悲しくて寂しい時だけだと思ってた。
けど。
(……嬉しくても、苦しくなるんだ)
優しい人がいる。熱を分けてくれる人がいる。
失くしたくないと感じるものに出会ってしまった今、この瞬間の。
なんという幸福。なんという恐怖。
たった一人で波打ち際に立ち尽くしているあの子は、心を溶かす温もりがこの世界にはあるんだと、知っているのだろうか。
(仲良く……なりたいな)
手を繋いで笑い合えたら。
お人形みたいに可愛いあの子はきっと、今よりもっとずっと可愛くなる。
寂しそうな背中も、見えなくなるよね?
「……アルフィン」
ハウィスさんと並んで、アルフィンの後ろに立つ。
ゆっくり振り向いた色違いの虹彩が私を見上げ、こてんと傾いた。
「私の名前はミートリッテ。これからハウィスさんの家でお世話になるの。ねえ……私と、友達になって……くれる?」
突然の申し出に、アルフィンはきょとんと瞬き
「……はい。よろしくお願いします」
大人もびっくりの綺麗な姿勢で、頭を下げた。
再び持ち上がった顔は無表情だけど。
よぉーく見ると、白い頬にうーっすら赤い色が付いている。
(やっぱり。すごく、可愛い)
寂しげに一人で佇む、私とそっくりな境遇の女の子。
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