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第十二話
第十二話 勘違い
次の日呼ばれた少年が研究所に訪れてきた。信じられないといった顔をしている。
「本当にもうできたんですか!?」
「左様」
博士は鷹揚にそれに答える。
「それがこれじゃ」
「これですか」
博士が出してきたのは丸薬が一杯入ったガラス瓶であった。それを見ると何となく間違いはないように彼は思えた。
「それを飲めば効果覿面じゃ」
「僕があの娘に」
「早く飲むがいい」
博士は笑顔でそう勧める。
「そうすれば君はほれる」
「ほれられる」
何故か言葉の意味を取り違えていた。
「何の問題もないぞ」
「有り難うございます」
彼はあらためて礼を述べた。
「これであの娘と」
「うむ」
深々と頭を下げた後で立ち去る。小田切君は彼を見送った後で博士に声をかけてきた。
「あの」
「何じゃ?」
「本当に大丈夫なんでしょうね」
彼にとっては不安で仕方のないことであった。
「あの薬」
「ちゃんとほれるぞ」
「ほれる!?」
ここでようやく気付いた。だが遅い。
「左様、彫れるのじゃ。掘るのもな」
「あの、博士」
それを聞いて愕然となるのを必死に抑えながら尋ねる。
「惚れ薬だったんじゃ」
「じゃから彫れ薬じゃよ」
博士は平然とした顔で答えた。
「あの少年は今から天才芸術家になるぞ」
「それじゃあ全然駄目じゃないですか」
「何故じゃ!?」
博士はまだ何もわかってはいない。
「惚れ薬だったのに、頼まれたのは」
「何、心配無用じゃ」
やはりその平然とした態度は変わらない。
「だから安心して見ておれ」
「どうなっても知りませんからね」
「どうにもならんよ」
博士は笑って言う。
「わしは天才じゃからな」
「字、合ってますよね」
「どういう意味じゃ」
「いえ、別に」
とにかく薬は渡された。話はとんでもない方向に動こうとしていた。いつものように。
第十二話 完
2006・8・27
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