第三章 エリュシオンの織姫
最終話 紡がれた未来へ
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村の若い男達からは絶えずアプローチを受けているらしい。
だが彼女はその全てを断り、あくまで看護師の職務に集中したいと主張してきた。
――しかし実のところ、その言い分は村の者達からはあまり信じられていない。彼女はいつも、共に診療所を切り盛りしているサダトの隣にいるからだ。
たまに村民がその点を指摘する度、彼女は顔を真っ赤にして「私情」を否定するのだが――その反応がさらに、村民達の疑惑を煽っていた。
そういうこともあり、サダトは村民の大部分からは慕われる一方で、一部の若い男達からはあまり歓迎されていなかったりする。
「全く……よくそんな調子で医師になれましたね。何で医師になろうと思ったんだか」
「ん? 何で医師に、か……うーん」
遥花が漏らした愚痴に、サダトは顎に手を当て暫し逡巡する。口をついて言葉が漏れ始めたのは、その数秒後だった。
「……わからなかったから、かなぁ」
「え?」
「人のため、人のためって言っても……それが本当に人のためになってるかなんて、結果が出るまでわからない。僕自身はそのつもりでも、本当はそうじゃなかった――『過ち』だった。そんなことが、たくさんあった」
「……」
「だから、本当に人のためになることが何なのかを知りたくて……それをずっと追い求めていたら、いつの間にか医者になってた。気がついたら、この白衣を着てたんだ」
普段の間の抜けた雰囲気とは、少し違う。その違和感を肌で感じた遥花は、暫し神妙に聞き入っていた。
そんな彼女の様子を知ってか知らずか、サダトはすぐにおどけた表情に戻ってしまう。
「あはは、なんかごめんね。わけわかんない理由で医者になっちゃって!」
「……今も、『過ち』ですか?」
「ん?」
「この島で、この村で医師を続けていること。私と一緒に、診療所を切り盛りしてること。村のみんなと、笑い合って暮らしていること。先生にとっては……『過ち』ですか?」
だが、遥花の表情はどこか不安げだった。
宇宙へ帰った異星人の姫君とどこか似ているその表情に、サダトはバツの悪そうな面持ちになると――青空を仰ぎ、呟いた。
「……まだわからない。その時が来ないと」
「……」
「だけど。きっと『過ち』なんかじゃない。ここに来たこと、みんなに会えたこと。医師でいること。どれも大切なことなんだって、僕は今も信じてる」
「……そっか……そうですよね! 私も、南雲先生と会えてよかっ――い、いえ、なんでもないです」
その言葉に、遥花は不機嫌だったり不安げだったりと曇りがちだった表情を一変させ、華やかな笑顔を浮かべる。すぐに顔を赤らめて言葉を中断してしまったが。
そんな彼女に、何処と無くあの姫君を重ね――サダトも、穏やかな笑みを浮かべていた。
……
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