第三章 エリュシオンの織姫
第8話 青空になるまで
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――2016年12月12日。
東京都稲城市風田改造被験者保護施設跡。
施設のほとんどが瓦解し、建物としての体裁を成していない風田改造被験者保護施設。その廃墟同然と化した建造物らしきものの近くには、タイガーサイクロン号の残骸が散乱している。
さらに辺りには火の手が上がり、黒煙が絶えず昇り続けていた。
「ぐ、う……!」
その渦中である敷地内の庭園。そこに倒れていたサダトは、混濁しかけていた意識を持ち直して何とか立ち上がる。
「……ぬ、ぁ……」
一方、それと同時に――黒ずんだ鉄塊の蓋を開け、羽柴も身を乗り出してきた。
噴き上がる黒煙の中から現れたその姿は、蒸し焼きにされた影響であちこちが焼け爛れ、さながらゾンビのようになっている。
ボロボロになったトレンチコートを脱ぎ捨てシェード特有の迷彩服姿になった彼は、歪に焼け爛れた面相のまま庭園の上へ降りてきた。
彼が黒の軍靴で踏んだ草花が焼け落ち、黒ずんだ炭になっていく。彼がそこに存在しているだけで、この地の自然は焼き尽くされようとしていた。
例えるなら、この世の最果て。そんな戦場の中心で再び相対した二人は、満身創痍のまま睨み合う。
「……詫びねばならんな。貴様を見くびっていたことに」
「詫びというものを知る頭があるなら、さっさと降伏しろ」
「降伏、か。俺がもし人間だったなら、それも有りだったのかも知れん」
「……」
自嘲するように嗤う羽柴は、懐から一本の酒瓶を取り出した。
昭和時代の日本酒に使われる、その瓶には――達筆で「八塩折」としたためられている。
それに呼応するように、サダトも懐からワインボトルを引き抜いた。比叡達から貰った力は、先程の追突で失われている。
もう彼には、この一本しか残されていない。
だが、そのボトルには――「GX」という見知らぬ字が刻まれていた。そんなボトルは、サダトは使ったことがない。
しかし彼は、直感でそれが何の力を秘めたボトルなのかを見抜いていた。
強化改造され、目覚めたあの日から自分が持っていた、この力。
これこそが、今の自分の「新しい体」の力を完全に引き出す鍵なのだと。
「ようやく、俺の餞別を使う気になったか」
「貴様のモノを使うのは癪だが、他にアテもなくてな」
羽柴は迷彩の上着を、サダトは黒のライダースジャケットをはだけて、その下に隠されているベルトを露わにする。
互いのそれは一見同規格のようにも見える形状だが、羽柴のベルトは木製と見紛うようなカラーリングとなっていた。日本酒を模した起動デバイスに合わせたデザインとなっている。
「勝てば官軍、負ければ賊軍。世界は、その真理に対しては実に正直だ。お前に如何程の大義が
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