第三章 エリュシオンの織姫
第4話 異形の右腕
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すんぞっ!」
「ひっ……いいっ!」
その時。後ろから進み出た男性が、強引に女性を突き飛ばす。
女性の身体は宙を舞い、男性もそれに続くように屋上の向こうへと飛び出して行った。
望まぬタイミング、望まぬ死。
唐突にそれを突き付けられ、女性の悲鳴が上がる。
「きゃあぁあぁあっ!」
重力に吸い寄せられ、地面が近づいてくる。風音が耳周りを吹き抜け、恐怖を煽る。
もがいても生き延びてもどうにもならないと知りながら、それでも彼女は叫ぶのだった。
「間に合って……ッ!」
だが、逃れられない死の運命に、警察官の娘は敢然と立ち向かう。遥花は屋上端に辿り着いた瞬間、改造された右腕の「力」を解放した。
機械仕掛けの右腕――「ロープアーム」に取り付けられた鍵爪は、唸りを上げて彼女の腕から射出されていく。その爪と腕は、一本のロープで繋がっていた。
一瞬にして、落下して行く女性の胴体に巻き付いたロープは、その身体を地面に激突する直前で食い止める。さながら、墜落すれすれのバンジージャンプのようだった。
だが、助かったのはその女性一人。
彼女を突き落とした男性を含む、他の被験者達は軒並み、自殺という本懐を遂げていた。
「あ、ありがっ……う、ぁ、あぁあぁんっ!」
「……大丈夫ですから。きっと、大丈夫……」
所詮は気の迷いに過ぎず、本気で死ぬつもりはなかったのか。引き上げられた女性は、何歳も年下の遥花にしがみつくと赤子のように啜り泣いていた。
そんな彼女の頭を抱き締め、母のように労わりながら。遥花は死を選んでしまった人々の骸を……骸の山を、哀しげに見下ろしている。
その脳裏には、男性が訴えた奇麗事の脆さが焼き付いていた。
「……お父さん……仮面、ライダー……」
頼みの綱は、果たして頼れるのか。行きたいと願う自分達に、救いの手を差し伸べてくれるのだろうか。
懸命に、気丈に、前向きに生きる一方で。
孤独に震える少女は、助けを求める言葉すら飲み込んでしまっていた。
口にすればきっと、この緊張の糸は途切れてしまう。今まで耐え続けていたものに、押し潰されてしまう。無意識のうちにどこかで、その可能性に勘付いていたから。
(たす、けて……)
だからせめて、心の内は。
本来の、か弱い少女としての己に生きるのだ。本当の自分を、見失わないために。
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