第三章 エリュシオンの織姫
第4話 異形の右腕
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すぐさま屋上に駆け上った彼女は、先ほど自殺した若者に続こうとしている十数人の男女を、必死に呼び止める。
だが、誰一人耳を貸す気配はない。一人、また一人と、屋上の端へと歩み寄っている。生気というものが感じられない、虚ろな瞳で。
「……うるせぇよ。どうせ俺達ァ助からねぇんだ。一生ここから出られねぇし、行く先もねぇ」
「それに……ニュースでやってたじゃん。目黒区の施設が壊されて、みんな殺されたって。仮面ライダーもやられたって」
「じきにここもブッ壊されて、俺達も殺される。警察だって助けてくれやしねぇよ、今までだって仮面ライダー任せだったし。その仮面ライダーだって、もういねぇんだから」
「そ、そんなことないっ! お父さんは……きっとお父さんは助けてくれるっ!」
そんな彼らに、被験者の中でも最年少の少女は懸命に生きる大切さを訴える。幼くして母を事故で喪った彼女は、残される家族の悲しみというものを身を以て学んでいた。
だからこそ、このような状況に立たされてなお気丈さを忘れずに生きてきたのだが――「実状」は、そんな健気な少女にさえ牙を剥く。
「……へ。助けてくれるから、何だってんだ。家に帰してくれるのか? 人間に戻してくれるのか? 仕事はあるのか? 保証してくれんのか? してくれねぇだろ。散々死にたい目に遭わせておいて、死のうとしたら『死んじゃダメ』? ……ざっけんじゃねぇクソがぁあ!」
「なっ……!」
遥花を怒鳴りつける男性の眼は暗く淀み、濁り果てていた。少女にとっては理解し難い、人間に出来るものとは思えないほどの「眼」。
闇の奔流そのものと呼べる、その眼差しで射抜かれた彼女は、思わず硬直してしまった。
その隙に踵を返した男性は他の者達と共に、屋上から身を投げて行く。
「だ、ダメぇぇええ!」
何がダメなのか。死を選ぶことの何がいけないのか。それはもう、少女自身にもわからない。
それでも、両親の愛情に育まれた彼女の心は、これを許してはならないと叫んでいた。理屈では止まらない力が、彼女を屋上の端へと突き動かしていた。
滝のように次々と飛び降りていく被験者達。彼らは自らの死を願い、躊躇うことなく身を投じていく。
頭部への衝撃は即死に至らないだけで致命傷には違いなく、半端な改造人間である彼らは一人、また一人と苦しみながら死んでいく。
――そんな中、ただ一人。
どこか瞳に迷いの色を滲ませた女性が、屋上の端で立ち往生していた。
「あ、う……」
生と死。その境界まで、あと一歩。
待っているのは「解放」か、さらなる「苦しみ」か。死後の世界を知る由もない彼女は、未知の境地に希望を見るか否かに、揺れていた。
「なんだビビりやがって! オラ、もう終わりに
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