第三章 エリュシオンの織姫
第3話 人間達の決断
[1/5]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
――2016年12月7日。
警視庁警視総監室。
日本警察の頂点が居座る、治安維持の中核。その一室に、三人の人物が集まっていた。
テーブルを隔てて向かい合う彼らは、揃って神妙な表情を浮かべている。周り全てを押し潰すような重苦しい雰囲気が、この一帯に漂っていた。
制服に身を包む精悍な顔立ちの壮年は、警視総監の地位に違わぬ屈強な肉体と壮健な眼差しを持っている――が。その瞳の奥には、深い葛藤の色が滲んでいた。
警視総監番場惣太。彼の向かいのソファに腰掛けるロビンとアウラは、その胸中を慮る一方で――彼が下していた決断に対し、厳しい目を向けている。
「それで、この結果ですか」
「……返す言葉も、ない。被害を最小限に食い止めるには、こうするより他はなかった」
「あなたはっ……!」
渡改造被験者保護施設襲撃事件。2日前に起きた、その大量殺人事件において番場総監は、警官隊を途中から全員退却させていた。
戦線に加わった仮面ライダーAPに戦いを任せ、現場から手を引いていたのである。
敵のテロに乗じて、被験者達を処分せよ。
それが日本政府の意向であり、警視総監といえど逆らうことの許されない大命であった。
結果として渡改造被験者保護施設は壊滅。同施設の被験者は全員死亡し、テロリストと交戦していた仮面ライダーAPも消息を絶った。
仮面ライダーまでもがやられた――と判断して差し支えない結果に終わり、警視庁は今も事後処理で騒然となっている。
特に、社会的弱者とされる改造被験者を狙った虐殺行為である本件は衝撃的ニュースとして世界中を駆け巡り、世界各国から哀悼の意が贈られた。
――そう、重戦車に乗っていたあの男が言っていた通りに。そしてそれは、番場総監の上に立つ閣僚の目的でもあった。
改造被験者を蔑ろにしては、人道的見地という面から日本は諸外国から猛烈なバッシングを受けることになる。
すでに政府により創設されたシェードの暴走が原因で、日本は国際社会からの信用を失いつつあった。故に、これ以上の信用問題は回避せねばならなかった。
そうした苦肉の策の中で生まれた改造被験者保護施設だったが、結果は国内からの批判を浴びる的と成り果て、政府もその維持費に頭を悩ませるようになっていた。
そんな折、シェードのテロとして保護施設が破壊され収容者が全員死亡した。それはある意味では、政府にとって僥倖だったのである。
合法的に予算を食い荒らす被験者を始末できた上、その罪を全てテロリストが被ってくれた。おかげで諸外国からは同情が集まり、融資のきっかけにもなりつつある。
――そんな情を持たない人面獣心の魑魅魍魎は、治安の要たる警察すらも飲み込んでいたのだ。
敵も味方も、
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ