第三章 エリュシオンの織姫
第3話 人間達の決断
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必要がある。
そのために動き出そうとしていた番場総監の前に、もう一つの書類がロビンから提示された。
「……番場総監。あなたはこちらも知りたかったのでは?」
「……そうだな」
番場総監は二つ目の書類を手に取ると、苦々しい面持ちになる。
「羽柴柳司郎……1948年8月15日生まれ、68歳。43年前に警視庁を退職、以後行方不明――か」
「現場に残されていたDNA情報が、ICPO本部のデータバンクと一致していました。あの重戦車に乗っていたという男に違いありません」
「羽柴先輩……」
その名前を、番場総監はよく知っている。右も左も分からなかった新人の自分を、厳しくも優しく導いていた憧れの先輩警官――それが彼の記憶に残る、在りし日の羽柴柳司郎だった。
しかし彼は汚職に塗れた警察上層部に絶望して、警視庁を去ってしまった。
それを受け、若き日の番場惣太は彼のような警官を生まないため、質実剛健たる警視総監を目指して――今に至っている。
正義を守る使命に燃えていた羽柴柳司郎は、シェードのテロリストに成り果て。彼の恩に報いるために正しい警察官僚であろうとした自分は、政府の虐殺計画に加担している。
二人して、かつての理想からは程遠い自分になってしまっていた。その現実と改めて向き合い、番場総監は暫し目を伏せる。
そんな彼の胸中を慮り、ロビンは彼が口を開くまで静かに待ち続けていた。
「……南雲サダト君を、何としても捜しだそう。――この男を、止めるためにもな」
「ええ。――その言葉を聞きたかった」
そして彼は、袂を分かったかつての恩師を止めるべく。意を決して戦う道を選び、ロビンに片手を差し出した。
その手を握り、日本警察とICPOに協力関係を結んだロビンは、この場で初めて微笑を浮かべる。
「……サダト様、どうか……ご無事で……」
一方。アウラは両手の指を絡めながら、窓の外に映る青空を見つめていた。
愛する男の、行方を求めるように。
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