第三章 エリュシオンの織姫
第3話 人間達の決断
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救い難い俗物ばかり。改めて突き付けられた現実と、やり場のない怒りに苛まれ、アウラは膝に置く両手を震わせる。
一体、何のために地球に来たのか。このような者達を救うことに、如何程の価値があるというのか。
その葛藤に直面する度、彼女は南雲サダトの貌を思い浮かべては誠意を尽くしてきた。だが、今は心の拠り所だった彼までもが行方知れず。
地獄絵図と成り果てた事件現場からは彼の一部と思しき「部品」も発見されたが、それでも彼女はサダトの生存を頑なに信じ続けていた。
そうでもしないと自分を保てないほどに、追い詰められている。焦燥や怒りに駆られた彼女の横顔を見遣るロビンは、そう感じていた。
「……恥ずかしいとは、思わないのですか! この施設で暮らしていた人達は、皆あなたの御息女のように懸命に生きていたのに!」
「アウラ様……」
「それなのに、こんなの……こんなこと……! あなたの、御息女までっ……!」
「……」
ひとしきり番場総監を責め立てた後。アウラは身を乗り出した姿勢のまま、今度は崩れ落ちるように嗚咽を漏らす。
――あの事件に対する世論の反応は、当然ながら「表面的には」被験者への悼みとテロリストへの義憤に満ち溢れていた。
だが、ネット上では重戦車による施設破壊を称賛し、あろうことか今回のシェードをヒーローと讃える者まで現れる始末となっている。
「こいつらのおかげで税金が浮いたぜ! おかげで経済がよくなるな!」「殺してくれて良かった。これでもう化物に怯えずに済むな!」「罪を背負って正義を成し、クソゴミに天誅を下してくれた。仮面ライダーなんかより、こいつの方がよっぽど正義だろ」。
そんな意見が表立っては言えない「本音」として、世界中を巡っている。そのどす黒い地球人の本質が、アウラの心をさらに責め立てていた。
守るべき人々に、自分ばかりか罪のない被験者まで否定され。とうとう、自分のために戦ってくれていた南雲サダトまで否定されてしまった。
ただ人々を救うためだけに異星へ足を踏み込んだ少女にとって、苦い思いでは済まされない傷となっている。
そんな彼女の姿を見かねたように、ロビンは彼女の肩に手を当ててソファに座らせる。番場総監は目を閉じ、彼女の叱責に耐え忍んでいた。
――だが。堪えようとしているのは、彼女の言葉だけではない。
日本政府は事件を受け、警察側と同様に一つの予想を立てた。それは、渡改造被験者保護施設を破壊した犯人は、次に風田改造被験者保護施設を狙うだろう――というものだった。
そして。政府は、彼に命じたのである。
風田改造被験者保護施設の警護に、人員を割く必要はない――と。
同施設は市街地内に設立されていた渡改造被験者保護施設とは異なり、東京都稲城市
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