第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第7話 広がる災厄
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!?」
「きゃあぁあぁ! ひ、人が、人がぁあぁああ!」
巨大な下顎が、ターミナル屋上を削りながら建物を両断していく。その直線上にいた人間は残らず餌食となり――辛うじて逃れた人々も、谷折りにされた折紙のようにひしゃげた屋上から、次々と海中に滑り落ちて行った。
「ぁ、あぁあ……い、いやっ……」
エースはそれを、ただ見ているしかなかった。間一髪生き延びながら、悲鳴を上げて滑り落ちていく母を。咄嗟に妻を助けようと手を伸ばし、道連れとなる父を。
散り散りに水底へと沈む生き残りに狙いを定めた巨大飛蝗が、急旋回して両断されたターミナルに迫る光景を。
「いやぁあぁあぁああッ!」
文字通り、一人残さず。
ひしゃげたターミナルの残骸だけを除く全てを喰らい尽くした巨大飛蝗の身体が、その僅かな足場に乗り上げ、勝鬨の如き咆哮を上げるまで。
エースは涙も鼻水も溢れさせながら、泣き崩れるより他なかった。周りの部員はもとより、部長ですら掛ける言葉を見つけられず、立ち尽くしている。
「ぶ、部長……」
「……くッ」
自分を迎えに来た両親を、目の前で食われた彼女に、何と言って励ませばいいというのか。どう取り繕えばいいのか。
「ねぇ……やだ! こっち見てる!」
その沈痛な静寂を破るように、乗客の一人が悲鳴を上げる。二つに割れた羽田空港ターミナルに立つ、巨大飛蝗は咆哮を終えたのち――紅く鈍い輝きを放つ複眼を、231便に向けていた。
231便と巨大飛蝗には、まだかなりの距離がある。とはいえ、相手は常識を遥かに超えた怪物であり、少なくとも見た目はジャンプ力が売りの飛蝗。
この距離でも一飛びで食いついて来る可能性は、誰もが予感していた。あり得ない、とは誰も言い切れない。
今の状況がすでに、常識というものを根刮ぎ崩壊させているのだから。
――その時。
「あ……あれ見ろよ!」
何かに気づいたらしく、状況の変化を見つけた男性客がある方向を指差した。
さらなる脅威が近づいているとでも言うのか。他の乗客達は絶望を滲ませた眼差しで、男性客が指差した先を見遣る。
「あれは……!」
だが。次にそれを目にした乗客達が漏らしたのは、絶望の声ではなかった。
浸水が激しい街道の中、僅かに水嵩が浅い道を通りながら急速に接近する――赤いバイク。そのシルエットは闇夜の中でも、乗客達には輝いて見えていた。
そのバイクを駆る、命知らずな一人の男は。
「追い付いたッ……!」
胸の傷に走る激痛も、滴る鮮血も、物ともせず。決死の形相で、ワインボトルをベルトに装填するのだった。
「もう……もう、これ以上は、絶対にッ!」
『SHERRY!? COCKTAIL! LIQU
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