第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第7話 広がる災厄
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――その時。
「……ねぇ、見てあれ! 何か……何かいる!」
「何かって何だよ!?」
「知らないわよ!」
状況が、動いた。
乗客の一人が窓から指差した先――水没寸前の羽田空港から、さらに奥に伺える都市部。水浸しにされたその街道に、不自然な水飛沫が上がっていた。
水を切る「何か」が、水中に潜んで羽田に近づいている。だが、その「何か」は鮫など遠く及ばないほどの大きさであった。
しかし都市を侵している水嵩は、鯨が自在に泳げるほどの深さではない。自衛隊のヘリにライトで照らされている「何か」は、鮫でも鯨でもないシルエットを持っていた。
「なんなの、アレ……! こ、こっちに……羽田に来てる!」
231便の乗客から見て、手前の方向へと「何か」は直進している。その進路上には、羽田空港――そのターミナルがあった。
「待って……! あそこに人! 人がいっぱい……!」
新たに何かを見つけた乗客が指差した先。その場所――ターミナルの屋上には、大勢の民間人が集まっていた。
この未曾有の大水害を受け、高所へ逃れようと急いだ人々が集中しているのだろう。身なりのいいスーツ姿の男性や、若い女性のグループなど、そこにいる人々の容貌は様々だ。
この非常時においては正しかったのかも知れないが、水嵩はターミナル屋上に届くギリギリまで高まっている。水没は、時間の問題だ。
そこには多数の救助ヘリも集まり始めているが、果たして間に合うかどうか……。
「……! お、父さん……!? お母さん……!?」
「なんですって!?」
「お父さん! お母さんっ!」
すると、パニック寸前の乗客達を懸命に抑えていた弓道部のエースが、その足を止めて窓の向こうを凝視する。その口から出た言葉に、部長も思わず反応した。
――そう。ターミナル屋上に避難していた人々の中には、彼女の両親も含まれていたのだ。合宿を終えた愛娘を出迎えるため、ここまで駆けつけて来たところで水害に遭遇したのだろう。
予想だにしない最悪の形で、合宿以来の再会となってしまった。
さらに。
この水害の猛威に震える、彼らを含むターミナル屋上の避難民に――水中の「何か」は、なおも急速に接近している。
「だっ――だめえぇえぇえぇえぇえッ!」
そこから予想される展開。どれだけ頭で否定しても、脳裏に焼き付いて離れないその展開を拒むように。エースは髪を振り乱し、必死に叫ぶ。
だが、水中から天を衝く水飛沫を上げて飛び出した、その「何か」――即ち巨大飛蝗は、彼女の命を削るような絶叫も、切実な願いも、容易く踏みにじっていく。
「な、なんだよあれぇえぇえ
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