第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第7話 広がる災厄
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なかった。
青梅市に降り掛かる水の災厄。それが、運んできたものに――彼女達は理解が追いつかず、畏怖する。
ビルに張り付く、巨大な新緑の生命体。飛蝗を象った「何か」が、理性というものを感じられない複眼に、彼女達を映していた。
「――お姉様、逃げッ……!」
その時点で、すでに運命は決まっていた。
恐怖に怯える暇も、絶望に打ちひしがれる暇も、正確に状況を理解する暇さえ、与えられず。何もかもわからないうちに、彼女は上体から食われていた。
「なん、デ……、なん、デ!?」
この光景を、長女は受け入れられずにいる。だが、それを咎められる者などいない。
今日は朝から夕方まで、友人や姉妹達と楽しく過ごし、夏休みの一日を満喫していた。男友達や女友達とプールに行ったり、ナンパされたり、軽い男はお断りと袖にしたり。
仲間内でボウリング大会に興じたり、カラオケで盛り上がったり。周りが恋バナで盛り上がる中、恥ずかしくて入り込めなかったり。
そんな当たり前の日常が、夏休みの日常が、今日もこれからも続いていくはずなのだ。こんな状況になるなんて、聞いていない。
予報もなしに地震が来て、街が水に飲まれ、自分も腹まで水浸しになり――いきなり現れた怪物に、かけがえのない妹が食われた。
この連綿と続く平和な人生の中で、どうやってそれを予感しろというのか。
「イヤ……イ、ヤ……!」
――これは、夢だ。今日のナンパを断ったり、昨日告白してきたサッカー部のキャプテンを振ってしまったりしたから、バチが当たってこんな悪夢を見てるんだ。
だから、覚めれば自分は自宅のベッドの上にいるはず。今、血みどろになりながら下半身まで食い尽くされた妹も、いつものように呆れながら起こしに来るはず。そしていつものように、リビングの食卓まで半分寝ながら足を運ぶのだ。
だから、早く覚めて欲しい。早く、解放して欲しい。誰も死んでいない世界に、自分を返して欲しい。
その一心で、長女は両手で顔を覆う。次に目を開けたら、映っているのは見知った天井であると信じて。
――やがて。その間もじりじりと近づいていた巨大飛蝗は。
動かぬ格好の餌を、頭から喰らうのだった。
――それから、しばらくした後。
ほんの20分前まで、二人の美少女姉妹が歩いていた歩道の場所に……血に濡れた車が流れ着いた。そこから流れるラジオの音声だけが、水と血痕に溢れた、この街の中に響き渡る。
『本日未明、東京都西多摩郡の小河内ダムが突如決壊。大量の水が下流に流れ
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