第二章 巨大怪人、鎮守府ニ侵攻ス
第6話 進化する怪人
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のまま暫し立ち尽くした後……彼女達は無我夢中でそこから逃げ出し、遠く離れた川辺に辿り着く。
怪人は、追ってきていない。
「……き、てる。わた、し、たち……生きてる」
そこでようやく、自分達がこの地獄から生き延びたと悟るのだった。理由はわからないが、あの怪人は死んだのだと。
「よ、がっだ、よぉ……う、うぇえぇえん!」
「なによ、ピーピー泣いて。そんなんじゃ、レディしっか、く……うわ、あぁあ、あぁああぁあん!」
その次に飛び出たのは、生還への実感を起爆剤にして破裂した、号泣の嵐。少女達は互いに抱き合い、涙し、生きていることへの感慨を深めていた。
悪い夢は覚めた。自分達は生きる。明日には、また眩しい太陽が待っている。家に帰れば、いつものように夕食が待っている。
少女達は、疑うことなく。
そんな未来が来ることを、信じていた。
――苦しむことも、恐れることもなく。
巨大な牙の一撃で、死を遂げるその一瞬まで。
『ミズ……キレイナ、ミズ。トウサン……ミル、イッショ……』
少女達四人を瞬時に喰らい、その「日常」と「未来」を閉ざした存在。それは、あの怪人とどこか似ているようで――果てしなく、異なる。
体長は20メートル。六本の長い足を持ち、とりわけ最後部の後脚は一際長く、折り畳んでいても天を衝くほどの長さを誇っていた。
黄緑色だった身体は新緑に変色し、人と飛蝗が合わさった貌は、さらに飛蝗の要素へと傾いている。
――今ここに生きている人間がいたら。この怪物を、「巨大なトノサマバッタ」と表現していただろう。だが、最後の生き残りだった四人の少女は今、微かな肉片を咀嚼されている最中だ。
変わり果てた姿へと変態を遂げた怪人は、少女達の咀嚼を終えると、その脚を忙しなく動かし始め、ある場所を目指して進み始めた。
『ミズ、ミズ。キレイナ、ミズ。イッパイ。トウサン、イッパイ』
向かう先は、まだ見ぬ無数の「餌」が犇めく日本最大の都市。そして、その経路上に在る、「ミズ」の溜まり場。
――東京都西多摩郡奥多摩町。「小河内ダム」と呼ばれる、貯水池であった。
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