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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十八話 負の遺産
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と無く寂しげな、哀しげな表情だ。私達が嫌いな父の表情……。バラを育てる事など本当は楽しんでいない。

「お父様、クリスティーネの問いにお答えください。……もしやお父様は伯爵夫人に殺される事をお望みだったのですか?」
躊躇いがちに発せられた妹の問いに父は微かに笑みを浮かべた。

「昔はの、それでも良いと思っておった」
父の言葉に私は妹と顔を見合わせた。何処と無く投げやりな、虚無的な響き……。それも私達が嫌うものだった。

「今は違うのですか?」
「今は違う、希望があるからの」
父が横顔に微かに笑みを浮かべた。希望? 希望とは……。

「帝国は滅ぶ」
「!」
「銀河帝国、ゴールデンバウム王朝は滅ぶのじゃ」

私は思わず父の顔を見た。隣でクリスティーネが息を呑む気配がしたが妹を見る余裕は無かった。父は笑みを浮かべたままバラを見ている。本当に帝国は滅ぶと言ったのだろうか?

「父、オトフリート五世陛下の治世の下、帝国はすでに崩壊への道を歩み始めておった。貴族達が強大化し、政治は私物化された。帝国は緩やかに腐り始めておったのじゃ」
「……」

「予にはそれが判った。いずれ帝国は分裂し内乱状態になり、銀河帝国は存在しなくなると」
「……」

父は穏やかな表情で話している。帝国は今改革を進めようとしている。改革が進めば帝国は再生するに違いない。そのために今、内乱が起きているはずだ。それなのに滅ぶ?

思わずクリスティーネを見た。彼女も困惑したような顔で私を見ている。本当に帝国が滅ぶと思っているのだろうか? それともこれは過去の想いなのだろうか……。

「残念だが予にはそれを止めるだけの力は無かった……。出来るのは滅びを遅らせる事だけじゃ」
「……遅らせる事、ですか?」
「うむ」

「そのためには何でもした。その方らをブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯にも嫁がせた。いずれルードヴィヒの両翼になってくれればと思っての……。だがそれも潰えた……」

「ルードヴィヒが死んだからですね?」
ルードヴィヒ、私達の弟。あれが生きていれば帝国の混乱はもっと小さかったはずだ。だが父の答えは違っていた。

「そうではない、アマーリエ。その方らも知っておろう、あれがシュザンナの子を殺したからじゃ」
「……」
シュザンナ、ベーネミュンデ侯爵夫人、幻の皇后……。

「愚かな話よ、アスカン子爵家が政治的に力を振るうなど有り得ぬ事……。だが疑心暗鬼になったルードヴィヒは自分がいずれ廃されると思いシュザンナの産んだ子を殺したのじゃ……。生きておれば、あれの力になったやもしれぬのに……」
「……」

「おまけにその罪をその方らの夫に被せようとした。あれではもう誰もルードヴィヒに協力しようなどと思うものは在るまい。
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