暁 〜小説投稿サイト〜
Element Magic Trinity
折れ曲がりストレート
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名してまでの仕事ではなかった気もする。

(ま、一応報告しろって言われたものね)

見た目に惹かれて衝動買いし、最近ようやく履き慣れてきたブーツがコツコツと低い音を鳴らす。なかなかに苦戦した高めのヒールも今では慣れたもので、むしろヒールのない靴に違和感すら覚える程だった。
年中騒がしいギルドの、珍しく誰もいない廊下。この廊下の先にあるのは倉庫とマスターの仕事部屋くらいだから、用でもない限り人がいないのも頷ける。本当に人通りがないので、最近ではそれに目を付けて一人になりたい時はここに居座っているのだがそれはさておき。

「えっと…?こっちが仕事関連、こっちが報酬について。で…はあ?アイツ等始末書の催促状まで私に届けさせる訳?……私をパシリに使うなんていい度胸してるじゃないの」

提出先はもちろんマスター。今回の一件に関する資料より催促状の方が明らかに量があって、また絶句しかねないなと肩を竦めた。場合によってはお説教も有り得るだろう。……その催促状に書かれた内容の大半に思い当たる節がある事には全力で目を逸らすとして。
特に問題を起こしたい訳ではなく、手っ取り早く仕事を終わらせようとした結果がこれなのだが、それでマカロフの心労となっては意味がない。少しだけ、本当に少しだけ、小指の先より更に小さく、今度からは気を付けるかと反省する。
ティアとて、別に誰かに迷惑をかけたい訳ではないのだ。その相手がマカロフであるのなら、尚更。

(それでマスターに何かあったら流石に申し訳ないし、ラクサスうるさいし)

あんまりじーじに心配かけんなよ!と、それこそ会う度に言われていたのは何年前だったか。そんなに昔でもないような、けれど彼が祖父をそう呼んでいたのは随分と前の事のような気がして、その度に「あーはいはい、うっさいわね」と悪態づいていたのを思い出した。
気づけば数年。いつの間にかギルドの同年代の男性陣には背を抜かされ、(一人声変わりしてるのか怪しい奴はいるものの)騒ぐ声から高さが薄れつつあって、女性陣も少女と呼ぶより女性と呼ぶべき人がちらほらいて。まだ年相応に幼いのと元々目が大きいのもあってか未だに少女扱いのティアから見て、凄く大人っぽくなった同世代もいた。
―――みんな変わっていくのだ、と思う。勿論変わらないものだってあって、それでも何かが変わってしまう。誰とも関わろうとしなかった少女が気付けば中心にいる事も、心から笑えなかったアイツが大好きな少女の横で笑っている事も。アイツが、大好きだったはずの祖父を、何かとこちらに自慢してきた家族を、昔のように呼ばなくなった事だって。

「……きっと今は、そんな事言わないんでしょうね」

何気なく呟いた声は、どこか寂しそうにそっと響いた。







ヒールの音に混じって声が聞こえ
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