暁 〜小説投稿サイト〜
先恋
先恋〜どっちもどっち〜

[8]前話 前書き [1]後書き [2]次話
下校時刻、ちゃんと目を見ることも、話しかけることもできなかった。だが、陸太が自分を、自分が陸太を愛している事は分かっていた。其れだけで十分だった。
「え、えっと、さようなら、瑞木先生…」
「うん、さよなら、陸太君」
互いに軽く手を振り合い、沙奈は陸太の背中を見送った。
「…りょ…おも、い…」
沙奈は小さくそう呟き、火照る顔を両手で覆った。顔の熱を、少し冷たい手が冷やしてくれる。その感覚が心地良い。
「…どうしよ…」
沙奈は取り敢えず、といった様に、校内の教員用トイレに駆け込み、鏡で顔を見た。
「…わぁ…」
そこには、真っ赤な顔をして、如何にも幸せそうに笑う顔があった。こんなヘラヘラとした顔で職員室になど入れるものか、と沙奈は考えた。流石に何か疑われそうで怖かった。
「…何とかならないかな…」
沙奈が自分の両頬を上に押し上げていると、
「…ず、ずず瑞木先生??」
他の先生に見つかってしまった。その瞬間の自分の顔は酷いほどに可笑しな顔だ。沙奈は恥ずかしさにまた、顔を赤くしつつも、「…だ、大丈夫です、」と答えた。





「…言ってしまった…と言うか…キ、キキキ…キスを…して、しまった…」

その頃、ベットの上一人、陸太は顔を真っ赤にして、布団を被り、丸くなっていた。
「ど、どうしよ…突然キスなんて、沙奈先生は優しいから何も言わないけど…引いた…かな…、急に…、デ、デリカシーが…無かったの…かな…」
陸太はそんな事をブツブツと呟きながら、ゆっくりと目を閉じ、沙奈の顔を思い出していた。


「…好きです…沙奈さん…」

そんな、今すぐ沙奈に送りたいと思うその言葉は、誰にも届かず、ただ、部屋の中に静かに響いていた。


[8]前話 前書き [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ