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二十八話:正直な気持ち
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 最後に自分の気持ちを伝え、ぐだ男に背を向けていく、清姫。
 そんな彼女に並ぶように、ここまでぐだ男を案内したブリュンヒルデが現れる。

「よかったのですか…?」
「それはあなたの方こそ。お慕いしていたのでしょう? ぐだ男さんを」
「私は嘘のない世界を正直に生きたいだけです。それが例え……夢物語だとしても」

 お互いに無言になり、雨の音だけが鼓膜を打つ。
 このまま最後まで会話がないのではないかと、ブリュンヒルデが思い始めたときに、清姫がポツリと言葉をこぼす。


「正直者は馬鹿を見ると言いますが……本当かもしれませんね」


 彼女の頬から、一滴の水滴が零れ落ちる。
 それがただの雨粒なのか、それとも涙なのかは誰にもわからない。
 だから、ブリュンヒルデは励ますためではなく、本心からの言葉を伝えるのだった。

「でも、嘘つきになるより、よっぽど清々しいですね」
「……ふふふ。そうですね、本当に…清々しい気分です」

 最後に二人が零したものは、雨でも涙でもなく―――笑顔だった。





『ジャンヌ・オルタ……伝えたいことがあるんだ。聞いてほしい』

 清姫とブリュンヒルデが消えた後に、残った二人は見つめ合っていた。
 怯えるようなジャンヌ・オルタに対し、ぐだ男は少しずつ距離を詰める。
 しかし、ジャンヌ・オルタはそれでも拒絶しようとする。

「関わらないでって言ったでしょ…! 来ないでよ!!」
『それでも、伝えたいことがあるんだ』
「私には関係ないわよ! こんな醜い女に関わる必要なんてないでしょ!?」

 自虐的な言葉を叫び、少しでも遠ざかろうとする、ジャンヌ・オルタ。
 その度にぐだ男は彼女に近づいていく。

『落ち着いて、ジャンヌ・オルタ』
「知らない! 知らない! どうせ、私を好きな人なんていないんだからどうでもいいでしょ!?」

 追い詰められ、子供のように叫ぶジャンヌ・オルタ。
 彼女の頭には逃げることしかない。自信など欠片もない。
 否定され、拒絶される恐怖に怯えているだけだ。
 そんな小さくか弱い存在に、いつもの彼であれば優しく接していただろう。
 だが、今の彼は違った。


『―――うるさいッ!』


 声を荒げ、彼女が背にした壁に手を押し当て、逃げれないように捕まえる。
 その普段とは打って変わった態度に、彼女は震えて涙を滲ませる。

『よく聞いておけよ! 俺の気持ちをしっかりと聞けよ?』
「や、やめて……」

 拒絶されると思い、目をつぶって首を振るジャンヌ・オルタだったが、そんな抵抗は無意味だ。
 荒々しくも、優しさを込めた言葉からは逃れられない。


『お前のことなんか―――大好きだッ!!』


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