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けらけら女
第四章
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「あれが噂にある」
「女じゃな」
「わっちははじめて見たでありんす」
 客達から話は聞いていたがだ。
「いや、まことに」
「噂通りだな」
「そうした姿でありんす」
「ではな」
「これよりでありんすな」
「何とかする」
 こう言ってだ、林は。
 平太夫から桶を受け取るとその中の塩を掴み取って即座にだった。
 女に向かって投げた、すると女はすぐにその場でなめくじの様に瞬く間に消えていった、平太夫はそれに驚いて言った。
「これは一体」
「あの女は妖怪だったのじゃ」
「妖怪ですか」
「けらけら女といってな」
 林は妖怪の名前も言った。
「ああして廊下や窓から顔を出して笑う」
「そうした妖怪ですか」
「ただ笑うだけであるがな」
「害はないのですか」
「うむ、それだけじゃ、ついでに言うとあれで死んではおらぬ」
「溶けて消えましたが」
「また別の場所に現れる」
 溶けてしまったがというのだ。
「そうなるのじゃ」
「左様でありんすか」
「しかしこの店では今は消えた」
 そうなったというのだ。
「しかし油断するとまた出て来るぞ」
「それはどうしてでありんすか」
「この店は店の門の左右に盛り塩をしておらぬ」
 林は平太夫にこのことを言った。
「店に来た時に気付いたわ」
「だから店に来た時にああ言われたのですか」
「うむ」
 その通りという返事だった。
「そうじゃ」
「そうでしたか」
「妖怪や霊は塩を嫌う」
 林は平太夫にこのことを話した。
「だから力士も土俵に塩を撒くのじゃ」
「魔除けですな」
「そうじゃ、店の前に塩を置くとな」
 その盛り塩をというのだ。
「魔除けにもなるのじゃ」
「そうでありんすか」
「そのはじまりは魔除けではないが」
 西晋、中国のこの王朝の時代に皇帝である司馬炎は国を統一してから後宮に入り浸っていた。司馬炎は後宮の中を羊に曳かせた車で移動していたがそれを見た后達は司馬炎が自分のところに来る様に自分の部屋の前に羊が好きな塩を置いたのがはじまりと言われている。
「その効き目はある、だからな」
「二度とああした妖怪が店に入らない様にするには」
「そうするとよい」
「わかったでありんす」
 平太夫は林にすぐに答えた。
「ではすぐに」
「うむ、ではわしは帰る」
 林は平太夫との話を終えると悠然とした笑みで言った。
「やらねばならぬことがあるからな」
「と、いいますと」
「書を書いておる」 
 それがやらねばならないことだというのだ。
「それをせねばならんからな」
「だからですか」
「うむ、帰って仕事じゃ」
「そちらも頑張っておくんなまし」
「また来るぞ、今度は純粋に客としてな」
「またのおこしを」
 平太夫は林を笑顔で送った、そし
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