第一章
[2]次話
けらけら女
吉原のある店だ、最近妙な女が出ていた。
「おい親父、まただ」
「またでありんすか」
店の主である平太夫にだ、客の一人がいぶかしむ顔で言っていた。
「出ていたぞ」
「そうでありんすか」
「あの女何だ?」
店の客は初老で髷に白いものが混ざってきている小太りの平太夫に尋ねた。
「それで」
「それがです」
平太夫は客に困った顔で話した。
「わっち等にもです」
「わからないか」
「そうでありんすよ」
花魁の言葉を自分も使ってだ、平太夫は客に話した。
「廊下にいると顔を出していてけらけら笑っていてでありんすな」
「そうだ、それで近寄るとな」
「いなくなるでありんすな」
「あの女は店の女じゃないのか」
「あっちは店の主ですから」
だからだというのだ。
「店の者は全員頭に入れて知っているでありんすか」
「そんな女はか」
「知らないでありんす」
それも全く、というのだ。
「何処の誰なのか」
「あのけらけら笑う花魁はか」
「誰なのか」
「わからないか」
「実は旦那様以外にもです」
「あの女を見た者がいるな」
「そうでありんすよ」
こう話すのだった。
「これが」
「そうなのか」
「それで店の者の中でも話題になってまして」
「妙な話だな」
「乞食女が吉原には入られませんし」
壁で囲まれ門まである、店の遊女達が逃げない様にとのことだ。これが為に火事の時は恐ろしいことにもなっている。
「服も立派なんですよね」
「ああ、ちらりと袖を見たがな」
「太夫の服でありんすな」
「間違いない」
花魁の中で最も位の高いそれの服だというのだ。
「暗い廊下でも見えた」
「それもです」
「他の客達も言っているか」
「そうでありんす、太夫となりますと」
「この吉原でもだな」
「限られているでありんすからな」
「この店にもいるがな」
「知りませぬ」
そうした女はというのだ。
「いつもけらけら笑っていて廊下から見ている女なぞ」
「そうであるな」
「他の店の女ともです」
「どうしてこの店に入る」
「それ自体が無理でありんすからな」
「わからぬことだな」
「全く以て」
こう言うばかりだった、親父も。とかく客達からはその太夫の服を来て廊下から顔を出してけらけら笑う女が出たという話が何度も来ていた、それでだ。
平太夫も困っていた、それで番頭の甚吉、彼より二歳程年下の背の高い彼と相談をした。
「さて、どうしたものかね」
「店に出てくるけらけら笑う女について」
「そうだよ、何かいい考えはないかい?」
「あの女が誰なのかでありんすな」
甚吉は平太夫に言われてこう返した。
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