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カーテンコール
第四章
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 舞台に出た、すると観客達は皆拍手で彼を迎えてだった。
 彼は野薔薇を歌った、最初から最後まで。
 一語一語これまでのことを思い出しつつ歌った、学生時代からデビューをしてこれまでの長い現役生活を。
 そうしたものを思い出しつつだ、彼は。
 最後まで歌った、すると。
「ブラボーーーーー!!」
 歌劇場独特の歓声が彼を迎えた、花束が次々と舞台に投げ込まれ。
 拍手が鳴り響いた、彼はその観客達に深々と頭を下げて。
 舞台を後にした、そのうえで舞台裏で出迎えたミッターマイヤーに言った。
「これで後はね」
「はい、舞台が終われば」
「家に帰ろう」
 彼の家にというのだ。
「そうしよう」
「ご家族はもう待っておられますよ」
「妻に子供達に」
「お孫さん達に他の親戚の方々が」
「そして友人達も」
「皆さんお待ちです」
 まさにというのだ。
「ですからその時は」
「すぐに家に帰ろう」
「そうしましょう」
 二人でこう話してだった、舞台が終わると。
 ブライトンはミッターマイヤーが運転する車でウィーン郊外にある彼の家に帰った。そこには彼の家族や親戚一同、友人達が待っている。
 門を潜り庭を通ってだ。車を停めて家に入ると。
 家の中でも万雷の拍手が起こり彼を迎えてくれた、その拍手を聞いてだ。
 彼は目を丸くさせてだ、ミッターマイヤーに問うた。
「これは」
「はい、これはです」
「カーテンコールかな」
「そうです」
 その通りと言うのだった。
「マエストロへの」
「歌はもう終わったが」
「そして舞台も」
「しかしだね」
「そうです、カーテンコールです」
 見れば妻も子供達も孫達もだ、親戚も友人達も。
 誰もがだ、満面の笑顔で彼を迎えて拍手を送っていた。その彼等にだ。
 ブライテンも笑顔になりだ、深々と頭を下げた。そして言うのだった。
「只今」
「はい、お帰りなさい」
 一同の中央にいた妻がだ、彼に笑顔で応えた。デビューしてすぐに結婚して共に歩いてきた最愛の人物だ。
「お待ちしていました」
「そうしてくれていたんだね」
「ではこれから」
「カーテンコールの後は」
「パーティーです」
「パーティーの後でパーティーだね」
 ブライテンは最後の舞台のことから笑ってこう言った。
「そうだね」
「お酒もご馳走も用意していますので」
「そうしたものでだね」
「心ゆくまで」
「皆で楽しんで」
「お祝いしましょう」
 彼がこれまで歌えて無事引退まで迎えられたことをというのだ。
「そうしましょう」
「ではね」
「はい、そして」
「そして?」
「今日までお疲れ様でした」
 穏やかな笑顔でだ、妻は夫のところにまで来て言った。
「そしてこれから」
「ゆっくりとだね」
「お過ご
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