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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 33
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労感が漂っていた。

「若い時分の苦労は買い貯めしといたほうがお得だぞ。狸ジジイと狐親父の鼻をへし折る頑強な武器を得られるし」
「我々にそんな武器は必要ありません」
「無欲だなぁ」
「貴方に殺されたくないだけです」
「殺しゃしないさ。アルスエルナにとって価値があるうちは、誰であろうと全力で護ってやる。あいつもお前達も、ちゃんと理解してるだろ? なあ、ボナフィード=フルウム=ベルヘンス」
「…………」

 うつむいて「護ってると言えるのか……?」などとぼやくベルヘンス卿。
 彼には構わず。
 男性は「とりあえず任せておけ」と、ミートリッテに向き直った。

「さて。そんじゃ、まずはお前の質問に答えようか。私がお前をハウィスに預けた理由はもちろんお前に感謝を要求する為なんかじゃない。こいつらがブルーローズだったってのは、さすがにもう判ってるだろ? だから、だ。お前がリアメルティへの侵領者で、ブルーローズが私の手札で、私が当時のリアメルティ領主だったから。あの頃、死にかけてたハウィスを生かす為、私が手札を失くさない為に、王子と伯爵の権限を利用してお前を確保した。
 ……ああ、街に居た『伯爵』は私の前任者で、元・私の執務代理人だぞ。ハウィスへ領地を継承した直後に貴族籍を剥奪してやったら、一家で揃ってどこかに移住したけどな」
「…………??」

 予想もしてなかった言葉に耳を撃たれ、全身が凍り付く。
 物のついでに付け足された情報なんかどうでもいい。
 元領主? で執務代理人? 一家も、他に比べれば多少大人しいだけで、結局良い噂を聞かない、強欲な貴族だった。
 彼らがどうなったかになど、興味はない。
 それより

「ハウィスが死にかけてた……? それ、どういう意味??」

 浜辺で初めて出会った時。
 瞳に深い悲しみを宿していたハウィスには、確かに覇気が無かった。
 でも、小汚い浮浪児を、穏やかに温かく包んでくれて。
 死を連想させる様子なんか、少しも……

「十一年前。南方領のとある街の中で金をばらまいてる最中のハウィス達に石を投げ、大衆の面前で首切り自殺した売春婦がいたのさ」
「……は?」
「ブルーローズの目的はシャムロックと同じ、南方領の経済安定だった……とは言っても、当時は王都にもまだ戦争被害が色濃く残ってたし、現代とは比べものにならない切実さがあったんだけどな」

 ま、それはともかく。

 自分達の活動が一般民の助けになると心の底から信じていたこいつらは、売春婦の自殺を直視して以降、精神的に追い込まれて鳴りを潜めた。
 特にハウィスの落ち込み方は酷かったらしいぞ。
 毎日毎日、寝ても覚めても狂ったように泣きながらひたすらに謝り続け、赤い物を視界に入れれば声が掠れるまで絶叫した挙げ句、
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