巻ノ六十三 天下統一その十二
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「飲まぬか」
「うむ、考えたがな」
「今はじゃな」
「飲まぬことにした」
そう決めたというのだ。
「今はな」
「そうか、わかった」
「馳走もよい」
そちらもというのだ。
「兵達が楽しむのを見て楽しもう」
「ではわしもじゃ」
石田の言葉を聞いてだった、大谷は。
自身の前の馳走や酒を下げさせてだ、周りの者達に告げた。
「佐吉と同じものでよい」
「普通の晩飯ですか」
「それで宜しいのですか」
「うむ、よい」
周りの者達に微笑んで告げた。
「それでな」
「わかりました、では」
「その様に致します」
「ではな、さて今宵はじゃ」
大谷はあらためて石田に顔を向け彼に言った。
「二人であれこれ話をするか」
「それを肴にしても」
「水を飲むか」
「ははは、それで乾杯か」
「何、それもたまにはよかろう」
「それもそうか、ではな」
「今宵は二人で飲もうぞ」
こう話して水を飲みそのうえで話を肴にした、それでだった。
二人で夜を過ごした、幸村はこの時は信之そして十勇士達と共にその酒と馳走を楽しんでいた。その中で。
彼は酒を味わってだ、笑顔で言った。
「これはまたよい酒じゃな」
「上方の酒じゃな」
信之が言う。
「これは」
「上方の酒ですか」
「摂津の酒じゃ」
この国の酒だというのだ。
「大坂で飲んだことがあってな」
「おわかりになられたのですか」
「うむ」
その通りと言うのだった。
「それでわかった」
「そうですか」
「そうじゃ、しかしな」
「しかしとは」
「御主も大坂で摂津の酒は飲んでおる筈じゃが」
「それはそうですが」
しかしとだ、幸村は兄の問いに答えた。
「ですが」
「御主が飲んだ酒ではなかったか」
「どうにも」
「同じ国でも田によって米の味が違う」
信之はここでこのことを指摘した。
「それで米から造る酒の味もじゃ」
「同じ国でもですな」
「違うのやもな」
「そういうことになりますか」
「そう思った、それでな」
その酒を飲みつつだ、信之はさらに言った。
「関東の酒じゃが」
「どうにもですな、水も」
「近畿と比べてよくはないな」
「土の質が悪いので」
「そのせいでじゃな」
「酒も水も味が」
近畿と比べてというのだ。
「落ちますな」
「どうしてもな」
「この酒は関東では飲めませぬ」
その摂津の、はじめて味わうその酒の味を楽しみながらだ。幸村は信之に対して言った。
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