巻ノ六十三 天下統一その九
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「それと共にじゃ」
「それがしそちらにも伺います」
「頼んだ、しかし」
「しかしとは」
「迂闊であった」
石田はここで苦々しい顔になり使者にこんなことを言った。
「結局忍城を攻め落とすことが出来なかった」
「そのことがですか」
「うむ、迂闊であった」
こう言うのだった。
「実にな、しかしじゃ」
「それでもですか」
「戦は止める、必ずな」
石田は使者に約束した、そうして。
法螺貝を鳴らさせた、同時に忍城の方からも聞こえてだった。
幸村と甲斐姫は一騎打ちを止めた、十勇士達もだった。
「戦は終わりか」
「その様ですね」
甲斐姫も言う。
「しかも今の音は」
「はい、戦そのものを止めるもの」
「では」
甲斐姫はその音からすぐに察して言った。
「我等は敗れました」
「北条家はですか」
「小田原は陥ちました」
このことを察しての言葉だ。
「無念ですが」
「貴殿は負けておられませぬが」
「いえ、北条家は敗れました」
このことは確かだというのだ。
「間違いなく」
「そう言われますか」
「では降りますので」
それでというのだ。
「退かせて頂きます」
「さすれば、しかし」
「しかしとは」
「それがし貴殿のことは忘れませぬ」
幸村は微笑み甲斐姫に言った。
「見事な戦いぶりでありました」
「だからですか」
「はい」
それ故にというのだ。
「このことは忘れませぬ」
「それでは」
「機会があればまた」
「お会いしましょう」
二人でこう話してだ、そしてだった。
甲斐姫は幸村に一礼してから踵を返し兵達をまとめ忍城に向かった。十勇士達はその甲斐姫達を見つつ幸村のところに集まった。
そのうえでだ、彼等の主に言った。
「見事な方ですな」
「おなごにしておくのが惜しい位に」
「殿と一騎打ちで分けるとは」
「武も勇も相当ですな」
「うむ」
実際にとだ、幸村も十勇士達に答えた。
「まことにな」
「戦は終わりましたが」
「我等は勝っていませぬな」
「この城の戦においては」
「あの姫様には」
「どう見てもな」
勝っていないとだ、幸村も言う。
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