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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百九十話 仮面の微笑
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くない、そう思っているのだろう。
「そんな、御願いです、ラインハルト様……」

「だったら何故こんな事をしたのです! 伯が私を殺せとでも言ったのですか! 自分達で勝手に始めておきながらこの期に及んで……。ふざけるな!」
「!」

司令長官の生な感情がキルヒアイスに叩きつけられた。荒い息を吐き、胸を喘がせ司令長官はキルヒアイスを睨み据えている。司令長官は怒っている。そしてローエングラム伯を殺さざるを得ない事を悲しんでいる。遣る瀬無さそうな司令長官の表情が見えた。シューマッハ准将も俺も何も言えず立ち尽くすしかない。

司令長官が手をキルヒアイスの目の前に差し出した。手のひらには例のカプセルが有った。
「選びなさい、この場で自殺するか、それとも全てを話すか」

冷たい声だ。先程までの激情は欠片も見えない。だが司令長官の心はまだ荒れ狂っている。先程までの感情が炎なら今は氷だ。優しさなど何処にも無い、視線までもが凍て付くように冷たい。その冷たい視線でキルヒアイスを見据えている。

「自殺すれば伯爵夫人の命も保証は出来ません。三人でヴァルハラに行く、それも良いでしょう。どうします」
キルヒアイスの体が小刻みに震えている。首筋から汗が流れ、何度か唾を飲み込む音が聞こえた。

「……全て話します」
「良いでしょう。自分で選んだのです、その事は忘れないで下さいよ、キルヒアイス准将」

司令長官が柔らかい声を出した。表情にも笑みがある。それだけなら何時もの司令長官だった。だが目は笑っていない、仮面の微笑だった。心を隠す仮面の微笑……。


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