第11話『異端の烙印〜ガヌロンからの招待状』
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して、時折、盗み食いするガイさんを、ちょっぴり叱ったりしていました。
「みんな、ガイさんに話しかけてくれるんです。「優しい平和をありがとう」とか、「幸せをくれてありがとう」って」
「ティッタ……」
バートランが、涙腺を緩ませながら、凱と同じ栗色の髪をしている少女の名を囁いた。
「小さな子供をガイさんに抱いてほしいって、言ってくるんです。強くて優しい人になるようにって。あのお兄ちゃんのように勇気ある人になるんだよって、願をかけてくれるんです」
いつしか、ティッタの頬には熱い涙が伝っていた。小さな思い出が崩れていくかのような涙だった――
いつの間にか、凱という存在はアルサスの人々の心の奥底に、根付いていったのかもしれない。
心に根付いた人が連れられて行くその様は、まさに自分の心を刈り取られていく錯覚さえ覚えさせる。
本当なら、激情に任せて凱を庇いたてたい。しかし、それは出来ない。
凱に「だめだ」といわれているから。身内にも危害が加わるからといわれて――
(こんな時、ティグルヴルムド卿だったら……戦姫様だったらどうしたのだろうか?)
ふいに、ルーリックがそんなことを考える。
ここには、多くの人々が立場を抱えている。
ルーリックは、ジスタート軍の副官であり――
ティッタは、ティグルに仕える侍女であり――
バートランは、ティグルに仕える従者であり――
オージェ子爵は、テリトアールを治める貴族であるから――
異端の嫌疑を被っている凱を護ることはできない。
ティッタには、一介の侍女には、凱を庇う力がない。それがとてつもなく悔しかった。
どうしてガイさんが、アルサスのみんなを守ってくれたガイさんが、このような目に合わなければならないのか?
また、少女のハシバミ色の瞳から涙がこぼれ堕ちる。
(どうして……なんで……こんなに……あたしはなにもできないんだろう?)
ティッタのそんな小さな思いをかき消すかのように、獅子王凱は護送馬車へ連行されていった。
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