二十五話:正夢
[5/5]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
。
その結果、勢い余ってぐだ男に抱きつく形になる。
『……え、えーと、これは』
「一体何を…?」
困惑した様子になる二人の顔が面白いが、今のジャンヌ・オルタにはそれを笑う余裕などない。
なぜ、このような事態に陥っているのか自分でもわからない状況。
さらに、夢で感じたような温もりと匂いで頭が正常に働かない。
そのため、自分でも何を言っているのかわからないうちに言葉を紡いでしまう。
「あ、あんたが…私のことを見てないのが悪いのよ…!」
顔をトマトのように赤くし、上目づかいで見つめながら悪態をつく。
自分がぶつかったのが悪いのではなく、ぐだ男の不注意が悪いという責任転嫁だ。
それが終わると、恥ずかしさのあまりに当初の目的も忘れて、一目散に逃げだしていく。
『ジャンヌ・オルタ…?』
「……ぐだ男君、追ってあげてください」
『え?』
「あの子はきっと、あなたが自分を見てくれないことに嫉妬してしまったんです」
フンスと胸を張りながら断言するジャンヌ。
妹のことなら、なんでもお任せという姉の意地であるが、今回ばかりはただの勘違いである。
『いや、あれ、こけたことの言い訳じゃ……』
「違います! こう、啓示がキュピーンと降りてきてるんです! 自分だけを見て欲しいという気持ちだと!」
神は言っている。そんな啓示に覚えはないと。
「お姉ちゃんは知っています。あの子は恥ずかしがり屋で寂しがり屋なんです。自分の気持ちを上手く相手に伝えられない。そのせいか、私を昔みたいにお姉ちゃんって呼んでくれないんですよ!」
『いや、それは誰でも恥ずかしいよ』
何やらスイッチが入ったのか、おかしなテンションになるジャンヌ。
具体的には、経験値がどんどん増えそうな空間のテンションである。
「私はお二人を応援しています。だから、あの子のことをお願いします」
『いや、だから、多分勘違い……』
「お願いします!」
『ア、ハイ』
強引に説得をされ、死んだ目で頷く、ぐだ男。
もはや、抵抗することはかなわない。
「さあ、あの子を追ってあげてください!」
『もう、どうでにでもなれ』
完全に乙女ゲーの知識が偏っているジャンヌを置いて、ぐだ男は走り出す。
結局、予想通りに誤解だったので、コンビニのおでんと引き換えに許してもらったのだった。
しかし、ジャンヌのあらぬ誤解は、新たなる火種の元となる。
「た、大変なことを聞いてしまいました……」
三人のやりとりを見ていた、メガネの後輩の声が、夕暮れの校舎に静かに消えていくのだった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ