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Sword Art Rider-Awakening Clock Up
白黒の交流
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お)()った。口中に充満する熱と香りをたっぷり味わってから、柔らかい肉に歯を立てると、溢れるように肉汁が(ほとばし)る。

SAOに於ける食事は、オブジェクトを歯が噛み砕く感触をいちいち演算(えんざん)でシュミレートしているわけではなく、アーガスと提携(ていけい)していた環境プログラム設計会社の開発した《味覚再生エンジン》を使用している。

これはあらかじめプリセットされた、様々な《物を食う》感覚を脳に送り込むことで使用者に現実の食事と同じ体験をさせることができるというものだ。

キリトとアスナは一言も発することなく、ただ大皿にスプーンを突っ込んでは口に運ぶという作業を黙々(もくもく)と繰り返した。

やがて、文字通りきれいにシチューが存在した痕跡もなく、食い尽された皿と鍋を前に、アスナは深く長いため息をついた。

「ああ……今までがんばって生き残っててよかった……」

まったく同感だった。キリトも久々に原始的欲求を心ゆくまで満たした充実感に(ひた)りながら、不思議な香りのするお茶を(すす)った。

キリトの向かいでお茶のカップを両手で抱え込むアスナがポツリと言った

「不思議ね……。なんだか、この世界で生まれて今までずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする」

「……俺も最近、あっちの世界のことをまるで思い出せない日がある。俺だけじゃない………この頃は、クリアだ脱出だって血眼(ちまなこ)になる奴が少なくなった」

「攻略のペース自体が落ちてるわね。今最前線で戦ってるプレイヤーなんて、500人いないでしょうね。危険度のせいじゃない……みんな、馴染んできてる。この世界に……」

アスナの言う通り、ここ最近攻略に励む人が少なくなってきた。











キリト達が食事を終えた同じ頃、第50層《アルゲート》の転移門付近にポツンと置いてあるベンチに腰を掛け、硬そうなパンを食しているネザーも、夜空を見上げながら同じようなことを考えていた。

「……現実に帰りたいと思ってるのか……俺は……?」

ネザーはふと浮かんできたそんな思考に戸惑った。毎日朝早く起き出して危険な迷宮区に潜り、()踏破(とうは)区域(くいき)をマッピングしつつ経験値を稼いでいるのは、本当にこのゲームから脱出したいからなのかと、時々自分の考えに疑問を抱くことがある。

デスゲーム初期はそのはずだった。いつ死ぬかもわからず、《バトルディザイアー》の如く生き残りを賭けたデスゲームから速く抜け出したかった。だがネザーは死を恐れてるわけではなく、むしろ望んでいるほうだ。現実に帰還しても、自身を待っているのは戦いだけ。

その上この世界での生き方に慣れてしまった今は__曖昧に感じている。

でも__

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