暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 32
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戦後、西大陸からバーデル王国の北西部を経由して渡って来た果物なんだが、今のアルスエルナ王国ではごく一部の地域でしか生産できないし、水分が多くて傷みやすいから輸入量も他の果物に比べると極端に少ない。よって国内では全体の一割も流通させられない、希少かつ滅茶苦茶()()()()()なんだよな」

 びくっ!

「この果汁にしたって、本来の出荷時期には早い段階で取った物だし」

 びくびくっ!

「これがどれくらい希少なのかって言うと……『侯爵』が二年先まで入荷の予約待ちをしてる程度か。価格は一個当たり大体……」

 びくびくびくっ??

「で。一般民が普通に買おうとしたら破産街道へまっしぐら! な、そんなバカ高い桃の果汁を、この数日間、惜しみなくお前に費やしてたワケだが。代金の請求先はどこだと思」

「いやああああああああああああっっ?? やめてお願いなんでもするから、ハウィスにだけはこれ以上金銭的負担を増やさないでぇぇえええっっ??」

 涙目で。
 というか、完璧に落涙しながら。
 ミートリッテは頭を抱えて弾かれたように立ち上がった。
 真ん丸な瞳が絶望一色に染まっている。

「ぅわー、面白い反応。ちなみに正解は『アルスエルナの王室』だぞ」
「嫌だ嫌だ嫌だごめんなさいごめんなさいごめんなさ……い? え?」

 待て。
 この男性……今、なんと言った?

「アルスエルナの……()()……?」
「そ。この果汁はアルスエルナの王室が個人的な資産を投入して買い取った実を搾った物で、一部の貴族にのみ条件付きで無料配布してるヤツだから。ハウィスに請求が回される心配はしなくて良い」
「王室の、個人資産……?」

 やや濁り気味な液体が三分の一程度入っている、涙滴型の小さな容器。
 指先で摘まんだそれを揺らしながら、男性もゆっくり立ち上がる。

「な……んで、そんなもの……」
「なんで、の指す所がお前に使った目的なら、犯罪抑止の一言に尽きるな」

 王室が買い取った分の桃の果実は全部、国内における希少性を利用して、捕縛した侵領者全員に犯罪行為への抵抗感を植え付ける『後催眠暗示』と、暗示関係の一切を忘れさせる『健忘暗示』を掛ける材料に使ってるんだよ。
 掛ける暗示の内容は、調べ得る限りで把握した対象者の家庭事情や性格、犯罪歴で変わるが、お前の場合『桃の匂いを認識した瞬間に眠くなる』だ。
 眠りの深さも匂いの濃度で変化を付けておいたから、お前がとんでもない悪さを企んでいたとしても、ハウィスが桃の果汁を使えば、最大で一週間は静かにしててもらえるっつー仕組み。

 よく出来てるだろ? と、ケラケラ笑う男性。

「後催眠暗示って、そんな……いつの間に??」

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