Side Story
少女怪盗と仮面の神父 32
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
るなんて! 果てしなく迷惑だぁああっ! しかもこの人、なんか甘い、匂いが……)
「あ……、れ……?」
「ん? お、っと?」
意図せず、両膝がカクン! と落ちた。
拘束力が弛まった男性の腕をすり抜け、地面に座り込んでしまう。
「ミートリッテ??」
ハウィスの心配そうな叫びが聞こえたが。
急激な眠気に体の自由を奪われて、声が出ない。
(あの匂い……、だ……。どうして、今……)
「なんだ、まだ解いてなかったのか。お前なら簡単に解除できただろうに」
(解、除……?)
男性が、呆れた声色をアーレストに向ける。
アーレストは、ため息を一つ吐いて答えた。
「先ほどすべてを解きましたよ。貴方に関する記憶も正常に戻っています。ただ彼女は、彼女自身で長期間、無自覚に強固な暗示を使っていたようで、本人が無意識を被暗示状態に固定しているんです」
「要するに?」
「シャムロックはミートリッテのもう一つの人格。貴方のことは知らない。匂いを嗅げば眠くなる。この状態こそが正しいと、脳が学習したんですよ。匂いに反応してしまうのは彼女自身の意思、思い込みであり、彼女がそれを自覚しない限りは、暗示が無くても条件が整った時点で眠ってしまいます。ご覧の通り、効果は若干薄いですが」
「なるほど。単純に、寝惚けてる脳を叩き起こしてやれば良いんだな?」
「ええ。ですが、生半可なやり方は通用しませんよ。なにせ暗示を暗示だと理解していないのですから」
(暗示……あん、じ……?)
眠気に侵食されていくおぼろげな意識の片隅で、シャムロックが仕事前に必ずしていた自己暗示を思い出す。
薬草だか毒草だかの甘い匂いに含まれる成分ではなく。
自分はシャムロックだ、失敗は許されないと、自分に言い聞かせていた。
あの暗示こそが、今の眠気に関係してる?
「こいつ、すんごい律儀な性格してるしな。これを使えば多分大丈夫だろ。本当は奴らに使うつもりで持ってきたんだが、まあ良い。聴こえてるか? ミートリッテ」
男性が片膝を突いてミートリッテの顎に手を掛け、軽く上向かせる。
輪郭を失った視界が、きつくなった匂いのせいで、更に滲んでいく。
「ほい。飲め」
「…………?」
硬質で冷たい何かを唇に押し当てられ。
柔らかな液体が口内にとろりと流れ込んで広がる。
……果汁、だろうか?
ほのかな酸味が舌を刺激して唾液の分泌を促しつつも、香りや口当たりはまったりとしていて、とても甘い。
甘くて甘くて……もう、目蓋を開けていられない。
「どうだ。旨いか? これはな、桃の果実から搾り取った果汁だ」
(も……も……?)
「色の名前としては聞き馴染みがあるだろ? あの桃の実だ。先の大
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ