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ViVi・dD・OG DAYS
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して、この国を物語る重要な役割――神の与えし産物であるフサフサの獣耳とモフモフな尻尾。
 未だ夢の中での一時を楽しみ、大きなベッドの中央で小さく寝息を立てるその姿は、あたかも母の温もりに心を(ゆだ)ねてスヤスヤと眠る子犬のようであった。

 今はまだ寝息を奏でるだけの声にならない『声』も、彼女を(たた)える上での重要な魅力のひとつ。
 そう、彼女の歌声はこの国――否、大陸全土の民の宝とも言えよう。
 ひとたび彼女がマイクを握って歌い出せば、瞬く間に広大な会場を埋め尽くすほどのピンク色の光が照らし出され、彼女の歌声が止むと酔いしれた観客の歓喜の声援が会場中に響き渡る。
 俗に言う『アイドル』として崇拝されている文字通りの『歌姫』なのであった。
 当然、人柄も素晴らしく全国民から愛される礼儀正しき心優しい暖かな雰囲気の少女。
 この国に住まう者が口を揃えて「この国の民でいられることに幸せを感じている」と言っていることが頷ける人物なのであった。

 そんな少女を起こしにきたメイドはカーテンを開け、部屋へと降り注いだ先――
 柔らかく暖かな日差しに包み込まれている、ベッドに眠る彼女を優しい表情で見つめ、悲しい表情に変え、そしてまた、普段通りの優しい表情へと切り替えるのだった。
 彼女は少女の純真で無垢な寝顔を見るのが好きだった。例えそれが自分に課せられた使命だとしても、この瞬間は特権なのだろうと感じていた。
 それだけ心休まる寝顔であり、少女の寝顔から本人にとっても至福の時なのだろうと感じているのだった。
 しかし、少女は国の宝であり、国の頂点に存在する人物。
 それは本人が決して望んで得たものではない。
 そう、外見は年齢相応に幼く、とても華奢であった。
 本来ならば、蝶よ花よと育てられ、何も(うれ)うことを知らずに生活できたのだろう。
 だが彼女の目の前に突きつけられた現実。
 突如、課せられた当主としての責務。
 それは少女の意志や意向など聞き届けることなく、時が与えた試練なのだった。
 とは言え、彼女は意志も意向も持ち合わせて責務に臨んでいることだろう。
 だからこそ、これだけの国民からの人望も得られたのだと思う。
 しかし、その意志も意向も本人の野望によるものではない。
 あくまでも『国の為・民の為』と言う大人達の要望を()んだ、優しい気持ちの結果に過ぎない。
 そんな大人達の為に1人の少女は、有意義な少女時代を国の為に費やすことになったのだった。
 
 もしも彼女が普通の暮らしをしていたのなら? もしも先代が今も尚健在でいたのなら?
 彼女は年相応に自分の好きなことを存分に満喫できているのではないだろうか。
 日頃の激務に追われ、睡眠が唯一の至福の時になっているのではないだろうか
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