巻ノ六十二 小田原開城その六
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「ですからあえて律儀さをです」
「守らねばならぬ様にか」
「されるのもいいかと」
「とかく幾重にもじゃな」
「徳川殿を動けぬ様にしておきましょう、そして」
「そしてとは」
「茶々殿です」
ここで秀長は顔を曇らせた、そのうえで言うのだった。
「あえて申し上げますが」
「あれのことか」
「政の方ではありませぬ」
秀吉の愛妾であり捨丸の母でもある彼女はというのだ。もっと言えば浅井長政と信長の妹である市の間の長女であり秀吉にとってはかつての主筋の姫になる。秀吉は彼女が市に最も似ていることから側室にしたのだ。
その茶々についてもだ、秀長は言った。
「ですから」
「政のことはじゃな」
「関わらぬ様にです」
「そうさせておくべきか」
「必ず、ねね様の様にして頂ければ」
「よいか」
「くれぐれもです」
茶々、彼女はというのだ。
「政には関わらせぬ様に」
「わかっておる、わしも茶々は政は出来ぬと見ておる」
秀吉もそこは見抜いていた、それで秀長に言うのだ。
「心がどうもな」
「すぐに憤られます」
「心が不安定じゃ」
秀吉はまた言った。
「どうにもな」
「二度の落城があり」
小谷城、そして北ノ庄城だ。そのどちらにも秀吉が関わっている。
「そのうえです」
「二人共わしが殺した様なものじゃな」
秀吉はあえて自分から言った。
「浅井殿も権六殿もな」
「そうですな」
「そのことが事実じゃ」
小谷城攻めの先陣はその頃織田家にいた秀吉がした、そして北ノ庄城で柴田勝家を攻め滅ぼしたのも彼だ。
「わしが茶々の父上を攻め義父だった権六殿もな」
「それがしも傍にいましたし」
「紛れもない事実じゃな」
「まさに」
「そしてその二度の落城でな」
「茶々殿はどうもです」
その心がというのだ。
「不安定なものになられています」
「そうじゃな」
「ですから」
「政はな」
「その知識も持っておられませぬし」
「関わらせてはならぬな」
「絶対に」
それこそというのだ。
「それがし強く思いまする」
「わかっておる」
秀吉も確かな声で答えた。
「わしは茶々は政に関わらせぬ」
「その様に」
「ねねと茶々は違う」
「そうです、何もかもが」
「ねねは政のことは強く言わぬが」
「頼りにはされていますな」
「御主とねねは何があってもわしを裏切らぬ」
絶対にというのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「うむ、ねねもこれといって政には口を出さぬしな」
「茶々殿にも」
「そうする、捨丸の子であってもな」
断じてとだ、秀吉は秀長に約束した。
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