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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百八十四話 副司令長官
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出したくない。軍務尚書に対してこれからオーディンに戻ると言い出したのだ。正気ではなかった、素人の私から見てもローエングラム伯がオーディンに戻るよりもメルカッツ提督達がオーディンに戻るほうが早い。

一時的に貴族連合軍がオーディンを制圧するかもしれない。しかし一時的にだ。直ぐにメルカッツ提督達に一掃されオーディンは取り戻されるに違いない。それなのに軍事の専門家であるはずの伯は自分がオーディンに戻る事に固執した。

結局はエーレンベルク軍務尚書に私が考えたことと同じ事を言われて何も言い返せずに終わった。そしてエーレンベルク軍務尚書との通信が終了すると重傷者の司令長官に迎撃戦が出来るのかと言い募り、メルカッツ副司令長官を役に立たぬと罵った。

そして自分ならシュターデン大将を軽く一蹴しグリューネワルト伯爵夫人を守ることが出来るのだと何度も繰り返した。別働隊の総指揮官が戦争全体の事よりも自分の感情に振り回されている。しかもそれを隠そうとしない。溜息が出る思いだった、何度目だろう、伯に対してそう思うのは……。

昨日、艦隊を三つに分けたシュターデン大将がヴァレンシュタイン司令長官によって各個撃破され貴族連合軍が壊滅した事が分かった。オーディンは守られ危機は去った。グリューネワルト伯爵夫人の安全も確保された、喜んで良いはずだった。

だがローエングラム伯はそれ以来、口を噤んだまま一言も喋らない。いや、一言だけ喋った。軍を三分割したシュターデン大将を無能と罵ったこと、それだけだった。そしてブリュンヒルトの艦橋は重苦しい沈黙に包まれている。

少しずつ伯の事が分かってきたような気がする。この人は自分が頂点に、中心に居なければ気がすまない人なのだ。それだけの才能と自負を持ち自分に自信を持っている。

ヴァレンシュタイン司令長官がシュターデン大将を打ち破った事を素直に喜べない事がそうだ。本当なら軍全体の事、グリューネワルト伯爵夫人の安全が確保された事を素直に喜んでいい。それなのにそれが出来ない。

彼にとっては功績を立てるのは自分であり、自分の率いる軍であるべきなのだろう。だが現実は功績を立てているのはヴァレンシュタイン司令長官であり彼の率いる軍だ。

ヴァレンシュタイン司令長官が敵ならローエングラム伯も楽だったに違いない。“見事だ、でも次は叩き潰してやる”そう言って司令長官を賞賛する事も出来ただろう。しかし、味方である事がローエングラム伯の感情を複雑にしている。

認めたくないが認めざるを得ない。認める事は出来ても素直に感謝は出来ない。そしてそんな自分自身に対して不満を持っている、何と自分は狭量なのだろうと。今ローエングラム伯が不機嫌なのは自分が不遇である事への不満であり、自分自身の感情に対しての不満だろう。

不幸だと思う。感情を
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