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遊戯王GX〜鉄砲水の四方山話〜
ターン58 鉄砲水と精霊の森
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明かりが点々と優しい光でその中を照らしている。今座っている椅子も年代物の木製で、よく手入れされているのが一目でわかる。
 傷口に改めて目をやるとさっきまで肉がえぐれて血が溢れていたはずの肩にはすでに新しい皮膚ができていて、傷跡こそくっきり残っているものの動かす分にはちょっとくすぐったく感じる程度で何の支障もない。
 この短期間でここまでの治療を成し遂げた謎の技に感嘆していると、書斎のドアがかすかに軋む音を立てて開いた。

「ほれ、飲みなさい。毒などは入れておらんよ」

 先ほどから声だけ聞こえていた主の姿をようやく直接見て、思わず目が丸くなった。冗談めかして言ってくれた言葉も聞き流し、その人の姿を穴が開くほどまじまじと見る。
 その人は……いや、人、という呼び方も性格ではないのだろうか。ともかく、僕は彼を知っている。白い縁取りがされた緑色のローブと、その左胸に着いた勲章。深い髭と頭髪には白いものが混じり、全体的に濃い灰色となっている。右目に当たる部分には眼球がなく、代わりに開いたまぶたの間からは謎の光がかすかに発せられ、頭にすっぽりとかぶった王冠のような帽子をほのかに照らしている。

「辺境の大賢者……」

 あれはもう、1年は前のことだろうか。ある歴史の授業中、雑談の一環として突如話し出されたフリード軍の歴史。ならず者傭兵部隊やら切り込み隊長やらのカードと共に、フリード軍をバックアップする賢者という設定があったと紹介された話をたまたま覚えていたのだ。
 そもそも授業中にカードのバックストーリーが雑談とはいえ浮かび上がってくるあたりがさすがのデュエルアカデミアという感じもするが……まあ、その話は今はいい。実際、それを聞いていたおかげで目の前の精霊の正体がわかったのだから。

「その名で呼ばれるのも、随分と久しいな。今の私は賢者なんてものじゃない、ただの隠居の老人さ。さあ、冷める前に飲むといい」

 そう言われ、慌てて差し出されたカップを受け取る。ほんのり湯気の立つ中の液体は一見紅茶のような色だが、菓子屋としての僕の人生でも嗅いだことのないような不思議な香りと味がした。

「えっと……ありがとう、ございました。このお茶も、それから、先ほども助けていただいて」
「そう畏まることもない。ただ、君に一体何があったのか教えてもらえないかね?そのデュエルディスクも、私の知っている物とは少し型が違うようだが……」

 不思議と断りにくいその声の調子に誘われてか、あるいは砂漠の異世界では飲む余裕のなかった淹れたての熱いお茶にほだされてか、自然と口が開く。気が付くと、あの砂漠の世界であったこと全てを打ち明けていた。当の本人ですらいまだに信じられないような内容にも大賢者は口を挟まず、優しげなまなざしで時折頷きながら最後まで聞いてくれた。
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