ターン58 鉄砲水と精霊の森
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嫌というほど叩き付ける。噛みつきが緩んだすきに強引に傷口を引き離し、駄目押しにその下顎を骨も折れよとばかりの勢いで全力で蹴りつけた。
「ハア、ハア……ざまあみろってんだ!」
起き上がろうともがいている獣から目を離さないまま、じりじりと後退していく。傷口から出る血がぽた、ぽた、とその軌跡をたどってくるのを見て、逃げ出すことは絶対に無理だと改めて悟る。これだけ血が出てると、その後を追いかける事なんて子供でもできるだろう。
このまま向こうが逃げ出してくれれば問題なかったのだが、残念なことにそれは無理だったらしい。顎の骨が砕けたらしく口を歪に開いたままだらんと舌を垂らしながらも、いまだ戦意衰えぬといった様子で立ち上がる黒い獣。そして、相方の苦戦を見かねたらしいこれまで様子をうかがっていただけのもう1匹の獣がその隣に並んだ。
「う、うわぁ……」
結構本気出して蹴ったはずなのに、まさかまだ向かってくるとは思わなかった。しかも増えたし。じりじりと距離を詰められ、今まさに2体の獣が飛びかからんとした、その時。
「トラップ発動、閃光弾!」
「え!?」
瞬間的に辺りに光が弾け、視界がすべて強烈な目の痛みと共に白く塗り替えられる。近くにあったはずの木の幹に寄りかかろうと思わず伸ばした右手の手首が、皺だらけの人間の手に掴まれた。何が何だかわからないままに、その手の主が押さえた声で話しかける。
「早く、私についてきなさい。疫病狼は執念深い狩人だ、閃光弾も長くは持たん」
その声に含まれる不思議な迫力に呑まれ、抵抗する気にもならず引っ張られるままに歩いていく。どこをどう歩いたのか、目が見えないなりに感覚で覚えようとしたもののすぐに諦める。何度やり直しても、さっきから同じところをぐるぐる回っているように感じられてしょうがないのだ。しかし案内人が終始確固たる足取りで歩いていくため文句をつけることもできず、かれこれ30分ほど進んだだろうか。
「さあ、上がるといい。ここに椅子があるのがわかるかね?座って傷を見せてみなさい、今治癒をかけよう」
導かれるまま椅子に座り、言われたとおり血染めの制服を脱いで傷口を出す。何か聞き取れない言語でしばらく呟いたかと思うと、傷の痛みが次第に和らいでいくのを感じた。
「これは……」
「すまないが動かないでくれ。出血は止めたが、疫病狼の牙はその名の通り病気を運ぶ。もう少し様子が見たいから少々ここで待っていなさい、お茶でも持って来よう」
「は、はい」
よくわからないがたしなめられたので、代わりにようやく見えるようになってきた視界で、腕を動かさないようにそっと辺りを確認する。ここは、書斎だろうか。ぎっしりと古めかしい本が詰め込まれた見上げるほど高い本棚が果てしなく並び、ランプの
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