ターン58 鉄砲水と精霊の森
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エルディスクに手を伸ばし、デッキからカードを取りだそうとして、謎の唸り声とか水場の位置とか、そういうのはもう全部頭から吹っ飛んだ。
確かにデュエルディスクはある。だけどそこにはまっているはずの、僕のデッキが1枚もない。デッキ入れのスペースはぽっかりと空いていて、僕のカードがどこにもない。
「嘘、どこに……」
チャクチャルさんにテレパシーを飛ばすが、よほど遠くにいるのかうんともすんとも帰ってこない。周りを見回しても、当然落ちているはずもない。そして、逃げ出すわけでもなくいつまでもそんなふうに悠長にしている隙を見逃してもらえるはずもなかった。ふと気が付いた時には唸り声の主は既に木を2、3本ほど離したところに移動していて、声どころかその息遣いすら感じられるようになっていた。それと同時に、なぜか肉が腐ったような嫌な臭いが空気に上乗せされる。
「くっ……」
今からでも背を向けて走り出す?いや駄目だ、土地勘は向こうにある。この状態だと、獣型モンスターどころか人間相手でも振りきれないだろう。木の上に登る……のもその間無防備になるし、そもそもあのモンスターに木登りができないなんて保証はどこにもない。地面に落ちていた苔むした石を手に取り、唸り声の方向に向き合ってそれを構える。どうせ何やっても詰むんなら、いっそ真正面から相手してやろう。腐ってもダークシグナー、体力勝負なら僕は並の人間を遥かに上回る。タイマンなら案外追い払えるかもしれない。
石を握りしめながら、そろそろと唸り声が聞こえる木に向かって歩き出す。向こうも、まさか獲物が自分から喧嘩を売りに来るとは思うまい。つまりは先手必しょ……。
「っ!!……こん、のおっ!」
左肩に強烈な痛みと熱い息の感触、そしてかすかに漂う腐臭がのしかかる。どうにか頭を後ろに向けると、黒色の獣の顔とその中に輝く鈍く濁った瞳が見えた。そしてその牙が突き刺さっている僕の肩が、噴き出す血の色でただでさえ赤い制服が真っ赤に染まってきているのを見て、ようやく何が起こっているのか理解した。
つまり、目の前で唸っているのは囮だったわけだ。よく考えればそりゃそうだ、こんな自分の位置がバレバレなのにわざわざ隠れてるんだもん。その隙にもう1匹が後ろに忍びより、目の前の敵に警戒した獲物を安全に襲う。まったくもって合理的だ。
だけど、僕もこんなところで2回目の死を迎えるわけにはいかない。理由はともかくとして、チャクチャルさんはここにいない。いたとしても、1度生き返った人間がもう1度蘇らせてもらえるのかはわからない。だから、ここは自力で生き延びるしかない。右手にまだ握っていた石を手放し、その獣の首根っこを無理やり掴む。牙がさらに深く食い込んできた痛みに泣きそうになるも、背負い投げの要領で身を捻りながら背中の獣を地面に
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