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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百八十三話 休息の陰で
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、そうではありません。元々あの二人は周りとは打ち解けませんでした」
「そうか……」
参謀長は何度か頷いている。ますます妙な感じだ。

俺は嘘を言ってはいない。あの二人はいつも一緒だった。そして誰とも打ち解けようとはしなかった。能力が有るのは皆が認めたが、誰も近づかなかった。近づけなかった。妙な二人だった。

「トゥルナイゼン少将、捕虜の護送には十分に注意してくれ」
「と言いますと、何か気になる点でも」
俺の質問に参謀長は頷いた。表情が厳しい、かなり重大なことのようだが、それがローエングラム伯と関係が有るのか?

「ラートブルフ男爵だが、彼は例の誘拐事件の犯人の一味らしい」
「まさか……」
「司令長官の言葉だ。先ず間違いはないだろう」
「……」

あの誘拐事件にラートブルフ男爵が絡んでいる。だとすると……。
「あの事件には謎がある。近衛の中に誘拐犯に協力する人間がいたこともあるが、その近衛が司令長官を暗殺しようとしクーデター紛いの事をしている。ラートブルフ男爵はその辺りの事を何か知っているかもしれん」

「だとすると、暗殺の危険がありますか?」
俺の言葉に参謀長は大きく頷いた。
「あの事件の謎は未だ解明されていない。解明される事を望まない人間が男爵を如何思うか……。司令長官もそれを心配していた」

「参謀長は宇宙艦隊の中にそのクーデターの協力者が居るとお考えですか……」
「分からん、それ以上は言うな、トゥルナイゼン少将。確証はないのだ、それに……」
参謀長の表情が歪んだ。

誘拐事件の時、一時司令長官の安否が不明になった。あの時のローエングラム伯の行動は決して快いものではなかった。たとえそれが混乱を早期に収束させようとしたものでもだ。それ以来、ローエングラム伯とクーデターの関係を危惧するものは少なくない。

ジークフリード・キルヒアイス……、ローエングラム伯に疑いがある以上、その腹心である彼が絡んでいない筈が無い。先程のキルヒアイスを思い出す。口数が少なかった、元々控えめな男だ、その所為かと気にもしなかったが、まさかラートブルフ男爵の事で気もそぞろだったか……。

「とにかく、注意してくれ。オーディンではキスリング准将にラートブルフ男爵を引き渡してくれ。准将とは既に話はついている」
「承知しました」



帝国暦 487年 12月16日  オーディン 新無憂宮 クラウス・フォン・リヒテンラーデ



「国務尚書閣下、ヴァレンシュタイン司令長官がオーディンへ押し寄せた敵、三万隻を撃破しました」
「……」

目の前でエーレンベルク元帥が声を弾ませている。ま、気持は分からなくも無い。後ほど陛下にもお伝えせねばならん。さぞかしお慶びになるじゃろう。大分心配しておられたからの。


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