二十二話:ライフゲーム
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だ…!』
至極真面目な顔で放たれた言葉は、1を切り捨てて、2を取る正義であった。
確かに分散させるよりも、一人が食べた方が確実性は増すだろう。
全滅の危険性を背負うよりも、一人の犠牲を許容する。
それが正義という集団秩序なのだ。
「フ……それならば、私が行こう。なに、体の頑丈さには自信があってね」
「いや、それならば俺が行くべきだ。俺は生まれてこの方、大病を患ったことがない」
「気にすることはない。囮役のような地味な仕事は、君には向かないだろうよ」
「誰かのためになれるのならば戸惑う理由はない。この心臓を捧げるのも厭わない」
何故か、率先して犠牲になろうとしている、エミヤとジークフリート。
声が似ているせいか、それとも内なる正義の味方になりたいという願望がそうさせているのか、それは誰にもわからない。
だが、二人の口論は発案者の鶴の一声によってさえぎられる。
「いや―――囮役はもちろん僕が行く…。君達はこれからの世界を守っていく、正義の意志達だ」
切嗣は恐れから声を震わせることもなく、淡々と言い切る。
そして、制止も聞かずにアイリの料理の器を自分のもとに寄せる。
「親父…!」
『まさか、初めからそのつもりで……』
「あなたは……なぜ、そこまで…」
動揺し、声を上げるぐだ男達に向き直り、切嗣は穏やかな笑みを見せる。
「僕はね、正義の味方に…なりたかったんだ」
「しかし、その願いは……」
「うん。正義の味方は期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ」
かつて、世界平和という馬鹿げた理想を掲げた男がいた。
しかし、理想は呪いに変わり、男をむしばんだ。
だが、男は一人の女に世界を超えた先でも愛されていた。
「だから、正義の味方になれるのなら、僕は喜んでこの料理を食べるよ」
「爺さん、あんたは……」
「それに、僕がアイリの手料理を他の人に渡すわけがないだろう?」
故に、全身全霊の愛でもって、返さなければならない。
キザな笑みを浮かべ、切嗣はスプーンを手に取り、深呼吸を行う。
そこへ、後片付けを終えたアイリがやってくる。
「あら、あなた。私の料理を独り占めにしてるの?」
「うん。みんなにわがままを聞いてもらってね。やっぱり、奥さんの手料理は僕だけのものにしたいからね」
「もう、切嗣ったらぁ」
歯の浮くようなセリフを並べ、アイリのご機嫌をとる、切嗣。
彼の姿からは、特別なものは何も感じられない。
それは、死線を何度も潜り抜けてきた、歴戦の戦士故に醸し出せる凄みでもある。
「それじゃあ、いただきます」
「はい。お味の方はどうかしら?」
周りの者たちは、いただきますをしても、
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