第9話『戦姫の所作〜竜具を介して心に問う』
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知らぬ軍が駐在することは、セレスタの住民にとって警戒せざるを得ないことだった。
戦争が始まる前までは、この子供達も普通に読み書きや計算を学ぶために神殿へ足を運ばせていた。
しかし、テナルディエ軍の襲撃を知った教導官は山か森へ避難した。正確には、自主的に避難したのだ。神殿には入れる人数が限られるし、自分一人だけでも神殿に入れることが出来れば――そのような想いを託して。
それから数日たってもセレスタの神殿へ戻ることはなかった。おそらく安静の地を求めてアルサスから離れていったのだろうか。それとも、避難空しくどこかで生命を落としたのか――
どのような経緯があるにしても、読み書きと計算を教える教導官がいなければ、子供達は学ぶ機会を失ってしまう。
テリトアールへ向かったティグルを見送った数日後、凱はティッタと相談してみたのだ。
「読み書きを教える?」
「ああ。駄目かな?ティッタ」
ティッタは思わず目を丸くした。そして、思ったことを言葉にした。
「どうして、ガイさんはそこまでしてくれるんですか?」
それから凱は、少し表情を暗くしてつぶやいた。ティッタは不安げに問いただす。
「ティッタ。大人はこれからもずっと大人だ。だけど……」
「ガイさん?」
「子供はずっと、子どもではいられないから」
ティッタは気づかされた。それは、子どもにとって黄金の一粒より貴重な時間だという事を。
神殿も決して無料で講議するわけではない。寄進という形でお金を「奉納」しなければならない。
今でこそティッタは神殿の巫女であったが、決して裕福だったわけではない。ティッタは両親の反対を押し切り、ヴォルン家の侍女になった。
当然、貴族の屋敷に務める以上は、一定以上の識字力と計算力を必要とする。自分を神殿に行かせてくれる両親と、いずれ仕える事となるヴォルン家当主の期待に応えようと、懸命に学んだのだ。
(子供はずっと、子どもではいられない……)
凱にとって、子どもに空虚な時間があるという事実ほど、残酷なものなどないと思っている。
「ガイさんがそうおっしゃるのでしたら、あたしは構いません。ですが……」
「ああ、分かっている。俺が直接子供達の家に迎えに行くよ。ライトメリッツ軍が駐在している以上、万が一という事がある」
直接子供の家に迎えに行く。これには凱にとって大きな理由があった。
義平心のあるライトメリッツ平と、為政者としてのエレンを信用してはいるが、可能性を捨てきれない。
ティグルのように立場のある人間なら、ライトメリッツ兵とて簡単に声を掛けられないからいい。だが、ティッタなどは時折ライトメリッツ兵の目に留まり、声を掛けて呼び止めることが多々あった。これでは子供達も、住民も迂闊に外を歩けない。
今は兵を百
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