第8話『戦姫集う王都〜風姫の新たなる挑戦』
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公国の民を富ませたいという強い想いが、自分の意見を大きく加速させたのかもしれない。
この時、エレンは複雑な心情で紅い髪の少女の「異彩虹瞳」を見据えた。
(どうも意申が乱立しているな)
ヴィクトールは頭を抱えた。今後のジスタートを左右する瞬間だ。十分に側近と議論をして決を採りたい。ただ、戦姫の独断行動に振り回されるのに時間を割きたくないのもまた事実だ。
深い溜息を一つだけついて、年老いた王は声を発した。
「エレオノーラ=ヴィルターリア。もし、ヴォルン伯爵とやらから報酬を得た場合、その中に領土を譲り受ける……ということは、ないのだな?」
エレンが勢力を増すかもしれない。とりあえず、それだけ確認をしなければならない。
当然、エレンには「結局それか」と半ば捨て鉢な表情を浮かべていた。
「もし、領土を譲られたなら、一欠けらの大地も残さず陛下に献上いたしましょう。この場にいる全員が証人でございます」
今、現状はどう動くか分からない。ひとまず、戦姫の勢力拡大なしと判明しただけ、よしとしよう。
「……宜しい。ヴォルン伯爵の件、そなたに任せよう」
やっと裁定が下ると、エレンはほっと息をついた。
ブリューヌで起こるだろう内乱に介入する気はいまのところ、国王にはない。――諸卿はジスタートの国益を第一とし、軽挙妄動は慎むようにせよ――と、エレンに裁定を言い渡して、今回における判廷は幕を下ろした。そもそも、「国益を第一」という部分を主根に置いた理由がある。
どのような形であれ、ジスタートと国交を継続ならあえて勝利者を問わない。都合のよい解釈をさせる為、濁れた言い方をした。
まず、ヴィクトールは国内に向けて具体的な成果を国民に示さなければならない。ブリューヌの情勢に関して、介入する、介入しないにかかわらずだ。
例えば傍観を決め込み、他国に先んじられて、今後のジスタートに損害が被るなら、王としての責務を問われるのだ。
(エレオノーラに言い渡した地点で考えておかなくてはならんな)
どのあたりで幕を引くかを。まずは半年を目途に様子を見る、次第と状況によっては撤退させなければならない。
国益の傷口が広くなる前に、口を挟む必要も出てくるだろう。
ブリューヌ内乱介入の件については、国営直属評議会の監査本部が設立されることとなった。
ジスタートが他国に対し、ブリューヌへ先んじたという優位性と、内乱の前兆期を逃すべきではない。エレオノーラとソフィーヤがその事を主張したのだが、どうもこのあたりが妥協の範囲らしい。ヴィクトール王が国益を第一という方針を選んだ以上、それ以上の決議を覆す事は出来なかった。
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