第8話『戦姫集う王都〜風姫の新たなる挑戦』
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ブリューヌが刃を交えることになるのだぞ!」
王からの叱責はまだいい。エレンにとって、矮小な王がそのように言いのけることなど想定内だ。
「他国の……それも一介の貴族にすぎない連中の面倒まで見る必要があるか」等――
「ディナントの戦では莫大な戦費がかかってるんだ」等――
背後や側面で囀る官僚達。エレンは思わず舌打ちをしそうになった。ジスタートの国益を第一に考える事は間違っていない。言い分は理解できるが、言い方は気に入らない。
卑しい利益欲が正論である故に、言い返せない歯がゆさが、エレンを罵る。
「恐れながら陛下に申し上げます」
官僚達の相次ぐ横やりに、一人の女性がエレンの隣に進み出た。手に持つ不思議な作りの錫杖を、ついた膝の前に置いて。
「ソフィーヤ=オベルタスか」
「列挙・羅列・枚挙・前例・外つ国を招き入れて国家の覇権を争った過去の事象に、適切な言葉を選ぶ暇はありません」
そして、ソフィーヤは柔舌による援護口撃を開始した。態度はあくまで控えめを心掛けて柔らかい。心にある根底の芯を捕えるように、王へ語り掛けた。
「ヴォルン伯爵の義に応じ、自領の民を護らんとする要請にエレオノーラ姫が応じたのは、戦姫たる人格の美路に立った故でしょう」
「綺麗ごとよな」
冷たく言い放たれる王と官僚の悪態。だが、それで引き下がるようなら戦姫は務まらない。
「ここでエレオノーラ姫を処罰すれば、他国に先んじたという我が国の優位を放棄することとなります。周辺諸国も内乱に乗じてブリューヌに介入するでしょう」
情と理という二段構えのソフィーヤの弁護に、エレンは安堵と感服の息をついた。
反発しづらい雰囲気の言葉選び。耳の奥へ染み込んでいく声帯。彼女は舌戦の反撃を抑えるツボを知っている。
年老いた王は、深い溜息をついて額に手を当てた。ヴィクトールが悪態をついたときだった。ソフィーヤは、深くのめり込んでくれた王の手応えを感じた。
「ここね」とソフィーヤは思った。
「我が国への小競り合いの遠因が、ブリューヌの内乱によるものだとしたら、これから先、ライトメリッツ、オルミュッツ、……いえ、我が国すべてに戦火が訪れるのは必須。だからこそ、エレオノーラの介入を承認するべきではないのでしょうか?」
一国の王として、ジスタートが戦火に巻き込まれることは見過ごせる事態ではない。一押ししたソフィーヤの進言。彼女が王に与えた効果は絶大だった。
ソフィーヤは決して誇張して言っているわけではない。ブリューヌの隣国ザクスタン、ムオジネル、アスヴァールは、虎視眈々と肥沃なブリューヌを狙っている。
この三国の現在の王は、いずれも野心家だ。思惑は違えど、目指すべき獲物は共有している。飢狼の中に放り込まれたようなブリューヌの配置
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