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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百八十一話 ファーストストライク
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か」

「ええ、作戦は念入りに立てることを好みます。そして作戦通りに動くときには非常に強いのです。しかし、一度意表を突かれると動転し迷い効果的な対応が出来なくなる。シュターデン大将にはその癖が多分にあります」
「……臨機応変に動けないと?」

「ええ。戦場で大切なのは主導権を握る事なのです。迷ってしまっては主導権は取れません。相手の動きを読もうとして反って相手の動きに合わせてしまう事が有る。主導権を取るどころか、相手の主導権を認めてしまうことになるのです」

「……」
司令長官が私を見た。穏やかな表情だ、戦場の指揮官だとはとても思えない。

「当たり前のことですが参謀と指揮官は違うのですよ。参謀の仕事は作戦を立て指揮官を補佐する事ですが、指揮官の仕事は決断することなのです。簡単なように思えますが、主導権を握るには決断しなくてはなりません。その決断で敵味方が何十万、何百万と死ぬ事になります」
「……」

司令長官の言葉は淡々としていたがずっしりとした重みが有った。これまでに何百万、いや一千万以上の敵味方を死なせた人間の言葉だ。今更ながら思った、百万人の敵を殺すという決断の重さとはどのような物なのだろうと。

これまで軍人達と付き合いが無かったわけではない。ラインハルトもキルヒアイスも武勲を挙げた喜び、昇進した喜びは教えてくれた。しかしその喜びの裏にある決断の重さを教えてはくれなかった。それとも感じなかったのか……。

「閣下、もしシュターデン大将がラートブルフ男爵と合流した場合はどうなさいますか?」
私の言葉に司令長官は微かに笑みを浮かべた。

「その場合は艦隊をオーディンとシュターデン大将の間に置き防御戦を展開します。敵は約二万隻、こちらは一万五千、メルカッツ提督が来るまでなら十分対処可能でしょう。後は挟撃するだけです」
「……」

司令長官はもう勝利を確信している。ヒルダの言葉を思い出した、書類を決裁している司令長官は戦場の武人には見えない、どちらかと言えば軍官僚に見える……。今私の目に映る司令長官は……、やはり戦場の武人には見えない、しかしヒルダの言うような軍官僚にも見えない。一体この人は何なのだろう……。

「どうしました。もう指揮を執るのには飽きましたか?」
「申し訳ありません、閣下と男爵夫人のお話に興味がありましたのでつい気をとられました」

いつの間にかワルトハイム参謀長達が私達の会話を聞いていたらしい。司令長官の問いかけに、いやもしかすると叱責なのだろうか、参謀長達は口々に謝罪している。司令長官は一瞬だけ苦笑するとまたスクリーンに視線を向けた。

「もう直ぐ敵の組織的な抵抗は終わるでしょう。掃討戦の必要は有りません、直ぐにシュターデン大将の艦隊を攻撃するべく動いてください」
「はっ」
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