第7話『闇の暗殺集団〜七鎖走る!』
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アルサスの特色なのか、空気は澄みきっており、そよぐ風はどこかひんやりとしていて心地よかった。
かつて、アルサスの民は懸命に働きながらも、平和に暮らしてきた。にもかかわらず、テナルディエ軍は兵をアルサスへ差し向けてきた。
故に、今まで外界に関心のなかった住民は、自由に領内の村同士を行きかうことをほどんどなくした。ティグルによって行動を規制されていたわけではない。常に臨戦態勢をとる必要があると分かった以上、それに伴う緊張感と責任感が、村の住民の心を縛り付け、行動を自粛させていたのだ。
目的地に歩いていく行為が、本来なら凱にとって楽しいはずである。だが、今はアルサスどころか、ブリューヌ国内の情勢自体が危うい。
気ままに歩いていると、待ち合わせの場所についてしまったが、時間を潰す必要はなさそうだ。しばらく穀倉地帯の分け道を歩こうかと思った凱は、彼方を眺めて二つの影を見つけた。
「ティグルヴルムド卿。それにティッタ。もう来てたのか」
「あ、あれ?もうそんな時間ですか?」
あいにく、この世界には日本人の常識で言う時計は無い。独立交易都市のように、24時間式の時刻体制が導入されていない以上、彼らは概ね太陽の動きに沿って行動しているとされる。1刻がだいたい2時間。まだ分や秒の概念は存在しない。だから、「もうそんな時間ですか?」というティッタの台詞が、妙におもしろかった。
ティグルの背中で居眠りしていたのか、ティッタはあわわと取り乱していた。そんな仕草に凱はなんだか癒された。
待ち合わせの相手は、くすんだ赤い若者と、彼に従う侍女の二人だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
凱とティグルは並んで小さな丘に座り込み、ティッタのお弁当を食べていた。
二人とも、ティッタの料理は大の好物であり、自然に恵まれたアルサスだったことも思えば、ティッタの弁当は必然である。
野道だからといって、アルサスで生まれ育ったティグルとティッタには気にする必要もないし、その点は凱にも似たようなものといえる。
「美味しかった……!」
「ああ、ティッタの御飯は最高だよな!」
言いつつも、凱はティグルの食欲を気にしていた。小食だったわけではない。むしろ、ありすぎた。
(そういえば、早く着いた俺よりも、先に来ていたな。一体、いつからここにいたのだろう?)
そんな凱の思考は、いきなりハンカチをティグルに拭き付けてきたティッタによって、中断させられた。
「ティグル様!口元にジャムがついてますよ」
「こら、よせ。ティッタ。ガイさんが見てるだろ?」
そんな光景を見て、凱は思わず漏らし笑いをしそうになった。しばらく、ティッタの攻撃とティグルの応戦を見守ることにした。
凱の視線を気にしているのか、ティグルはなん
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