第6話『想いを勇気に〜ティグルの選んだ道』
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テナルディエ兵を片っ端から薙ぎ払っていったんだ」
その時の光景は、彼女にとって鮮明に記憶として残っており、思い出すと、感情が高ぶっていく。
「なんだか、高揚したよ。兄さんが一人で、あのテナルディエ軍と戦っている光景を見ているとさ。あたしたちの怒りが体現されたかのようだったよ」
それから、戦いの様子を、女性は淡々と語った。
ものすごい速さで兄さんは敵に詰め寄り、馬が驚いてひっくり返って、後続の騎兵たちに追い打ちをかけたと――
獣のような速さで、セレスタの街中を駆け回った――
手に持ったナイフで、民を虐げる外道の輩を地に伏せたと――
襲われている人々を一人でも多く助けようと、兄さんは攻めを止めなかった――
そのおかげで、幸い死傷者は出ていないと――
お返しと言わんばかりに、テナルディエ兵は矢を放った。それも、火を乗せた矢で焼き払うつもりで――
あたしは、必死で応援したんだよ。「ガイさん!頑張っておくれ」って――
それこそ、無敵のテナルディエ軍が敗退する要素だった。
黄金の騎士はグラつきながらも、一気に息を吹き替えし、神殿の包囲網を打ち破る。
その直後だった。ティグルのアルサス帰還が、勝利をより確定づけたのだ。
自分が不在だったアルサスの状況を聞いたとき、ティグルの心根には、何かが芽生えようとしていた。
――ああ、そうか――ティグルは思った。
これからテナルディエ公爵と戦うことに、ティグルの心は不安と緊張で強張っていた。心のどこかで、自分で気付くことなく、不安を助長させ、緊張で心を固くして。
――テナルディエ家は古くからある名門貴族。その兵力は最低でも見積もって1万、最悪3万――
――対してアルサスは百人程度――
圧倒的に規模が違う。巨大な動物の足に蟻がつぶされるような心境だ。
ジスタート軍の兵を借りた時、テナルディエ軍と対峙した時、既に分かっていた事ではないか。
宴会の中でも、彼は表にこそ出さないものの、どこか億劫な気分であったのは、自覚せざるを得ない。
だが、今は何かが違う。
黄金の騎士の武勇伝を聞いたとき、戦意や闘志とは違う感情が、ティグルの中で芽生え始めていた。
――勇気。一欠けらの勇気――
大事なのは、現状を嘆くことではない。
自分がどのような顔で、どのような心で、自分に付いてくれる人に対するかだ。
現に、青年は領民の心を、勇気の火で灯らせてくれた。
どんなに小さな灯でも、それは決して消えてはいけない火。
ここにいるのは、一人一人独立しつつも、ティグルと共に同じ道を目指して進む盟友たちだ。
共に支えてくれる仲間たちがいる。
ティグルはしっかりと女性を見返し、答えた。
「聞かせてくれてありがとう。もう大丈夫だ」
お礼を言われた女性は、ティグルの
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