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魔弾の王と戦姫〜獅子と黒竜の輪廻曲〜
第6話『想いを勇気に〜ティグルの選んだ道』
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――

「目にも止まらぬ速さで、兵士たちの間をくぐって、これくらいのナイフで殺さずに倒しちまったんです!」

恰幅(かっぷく)のいい女性が、興奮気味で仕草を付けて――

「巨大な黄金の角に、黄金の鎧……まさに戦神ワルフラーンのようじゃ」

知識の深い老婆が、青年の容姿をそう例えた。

その青年、獅子王凱はたくさんの子供と遊んでいた。それはさながら「○○○○で、僕と握手」の光景だった。
子供達にとって、勇戦した凱の存在は、まさに絵本から飛び出てきた英雄や勇者(ヒーロー)のような存在だ。
空想の中で膨らませて、いないはずの存在に憧れるより、実在する人間の方がはるかに嬉しいし、なにより喜べる。
一騎当千、そのような武勇で片付けられるほど、凱の戦いは語れるものではない。
文字通り、本当に一人で戦い抜き、折れそうになった住民の心を鼓舞し、諦めない事への大切さを教えてくれたのだ。
言葉では、いつしか心の枝は折れてしまう。
行動なら、いつか必ず心の枝を伸ばしてくれる。

「その話を、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」

適当な座りものに腰かけたティグルは、領民にそう頼んだ。
本当なら、本人の所へ今すぐにでも行きたいのだが、領民の子供達が凱を完全包囲している。
ティグルとしても、子供達の楽しい時を邪魔したくはない。しばらくすれば、言葉を交わす機会も出てくるだろう。
彼自身も興味がある。自領の民が、部外の人間をこうも称えるなど。
ティグルの問いに、女性が答える。

「ほら、あそこに背の高くて、髪の長い男がいるだろう?間近で見た時、あたいはちょっぴり見惚れたよ。黄金砂のように零れる髪がとっても綺麗でさ。女ながらに嫉妬さえしたもんだ」

女性の表現に、ティグルの瞳はさらなる興味で輝いた。

「ティグル様がいない間、ここもいろいろあってね。盗賊団に襲われたり、ティッタちゃんが何者かに誘拐されたり、何かと災難続きが絶えなくてさ。本当に感謝してもしきれないよ」

盗賊団に襲われた。
ティッタが何者かに誘拐された。

――俺がライトメリッツにいる間、本当にそんなことがあったのか――

おおよそは、アルサスへ戻る途中、バートランから聞いていた。ただ、異国で聞くのと、住民の生の声を聞くのとでは、認識の度合いが違う。
現実味が、徐々に増していく。

「その連中はドナルベインと名乗ってて、ちょうどティッタちゃんがティグル様の身代金を何とか集めていたよ。ところが、奴らは寄ってたかってティッタちゃんからお金を巻きあげたんだ」

思わず、ティグルは手に力を込める。ティッタに乱暴を働いた連中に対する怒りの感情と、自分の為に身代金を集めまわっていたティッタの健気さに対して――
芝居がかったような口調で、女性は物語を再開
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