第6話『想いを勇気に〜ティグルの選んだ道』
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。もう、みんなも分かっているはずだ。ティッタの答えを……」
そう代弁した凱もまた、ザイアンを放す気持ちを宣言した。
もっとも、凱とて理の側面で利益につながらないのか、情の面でティッタの気持ちを汲んだのかは分からない。
どのみち、任務に失敗したザイアンを待ち受けているのは、苛烈な処罰だ。
肉親ではない。もっと、自分を取り巻く環境からくる侮蔑の笑い――
テナルディエ閣下の息子のくせに――
……バカ息子が――
誰もザイアンをザイアンと見ない、理不尽な環境――
精神の休まる場所のない、あの環境は今回の失敗が後押しして、さらに悪くなる。
ティッタは、ザイアンを許した。だが、アルサスの民全てが許したわけではない。領主だったティグルにとって、そのティグルの義に応じたエレンにとっては「倒すべき敵」であり、「憎むべき相手」なのだ。
最も恨んでもいい人間が、恨まれるべき人間の生を望んでいる。だから、これ以上ザイアンを束縛することはない。
凱の言葉に込められたティッタの心を知るように、ティグルとエレンは不満であったがしぶしぶ頷いて肯定を示す。
ネメタクムへ向かう街道まで案内し、ザイアンの姿が見えなくなっていく。
力のない足取りは、ザイアンの心に重い枷があるように思わせる。凱とティッタのやり取りの一部始終を見ていたティグルは、後ろから近づく三つの気配を感知した。
覚えのある銀閃。そして感触。長く付き合いのある朗らかな雰囲気。そして、自身を心から慕う弓使いだ。
「ティグル……本当にこれでよかったのか?」
「若……」
「あの人はティッタ殿を……」
「俺がティッタに委ね、そのティッタが出した答えだ。これ以上俺が言うことではない」
黒き弓は今だティグルにある。もう矢筒はカラなのに。なぜか、この時だけ、ティグルは愛おしげに弓を見つめていた。
エレンもそうだ。腰に帯びているアリファールを、何度か愛おしげに柄をなでていた。
くすんだ赤い若者は、見える形でザイアンに報いを与えたかった。
銀の髪の少女は、斬れることなら、斬り捨てたかった。
禿頭の若者は、そのどちらかは分からない。
「戻ろう。みんな。俺達にはまだやることがいっぱいある!」
心の内を隠し、ティグルは戦友と共にセレスタの町へ踵を返した。
この後、宴が待っている。
『夕夜・セレスタの町・勝宴場』
テナルディエ軍が撃退された。
セレスタの人間は真っ先に知らせを受ける事が出来たが、ユナヴィールの村や他の村が聞けば、「嘘じゃないのか?」と疑うのが普通である。
流石は領主様!ティグル様のおかげ!そんな称賛が宴会場の中心で響き渡る。
先ほどのザイアンの件で沈んだ空気が吹っ飛んだような雰囲気
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