第6話『想いを勇気に〜ティグルの選んだ道』
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ら吐き出される言葉は、少なくとも罰ではない。
声量の小さいティッタの声は、呆けているザイアンにとって聞き逃せないものとなり、少しずつ、彼の心へ染み込んでいく。
言霊のように確かな力となって、ザイアンのみならず、ティグルもエレンも……凱の耳にも届いていく。
「あたしたちが……一体何をしたって……いうんですか?」
これが……アルサスを苦しめたのが、嵐なら、洪水なら、干ばつなら、天災なら、天を恨めばいい。でも、天は何も答えない。天に向かって叫んだところで、虚空となって人間を嘲笑うだけ。
ならば、神々を恨めばいい。でも、神々もまた何も答えない。所詮、人間の祈りなど届きはしない。
しかし、アルサスを苦しめたのは、自分と同じ人間だ。だから聞きたい。答えが聞けるから。何故、どうして、あたしたちが一体何をしたのかを――
自分の気持ちを分かってほしい。願いを聞き入れてほしい。だから彼女は話し続ける。今にも引き裂かれそうな心のままで。
高ぶる感情が、ティッタの口調を強めて、ザイアンの心に畳みかける
「貴族の方々から見れば、あたしたちは弱い。弱い存在かもしれません。でも……」
それでも――それでも――これだけはどうしても言いたい。いや、言わなければならない。
「弱いことって、そんなに悪いことなんですか!?いけないことなんですか!?」
「オ……レ……は……」
――俺は、ジスタートの介入を防ぐ大義名分の為にやった事!現にそこには売国奴がいるではないか!?――そう正当性を訴えることもできたはずなのだが、ザイアンには出来なかった。
存在しなかった罪悪感が、顕著な形となって、ザイアンの心をかき乱す。ゆえに、反論も申し出も出来なかった。
ティッタとて感情に身を任せれば、ザイアンの首を胴と分かつ願いも出来たはずなのに、心優しいティッタにはできなかった。
憎むべき相手と、倒すべき敵は決して同意味ではない。
今更ながら、ザイアンの唇に赤い血が垂れていることに気付く。下衆のカタマリといえど、ティッタと、そして弱者と侮っている同じ色の血が流れていることにも気づく。
自分と同じ、赤い色をした血が――
二つの意味に気付いたティッタの言葉は、明らかにセレスタの雰囲気を支配していた。
そして最後に一言だけ、別れの挨拶を投げかける。
「……帰って……下さい……」
皮肉というべきか、つい先ほど前に、ヴォルンの屋敷でやり取りしていた台詞が飛んできた。
今のザイアンに、あの時のようにわざとらしく聞き返すこともできず、ただ茫然とするばかりであった。
小さな侍女の気持ちを代弁して、凱はザイアンの開放を宣言するのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ザイアン=テナルディエを解放する
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